シリーズ からだ元気

執筆者略歴 まつおか・ひろき
高崎健康福祉大学大学院食品栄養学専攻教授
専門は食品化学、博士(農学)
宇都宮大学農学部農芸化学科卒、
東京農工大学連合大学院連合農学研究科修了
1997年群馬女子短期大字講師、2002年高崎健康福社大学助教授を経て、2010年から現職。


元気な暮らしに役立つ栄養素のお話…松岡寛樹 高崎健康福祉大学大学院食品栄養学専攻教授 キャベツ ―生で食べることが大切 ~イソチオシアナートとビタミンU~

アブラナ科野菜

群馬県を代表する農産物の一つであるキャベツは、アブラナ科野菜に属します。日本の食卓にのる多くの野菜がアブラナ科に属レ(図1)、キャベツ以外にも大根・辛子・蕪[かぶ]・山葵[わさび]などがあります。アブラナ科野菜は、交雑しやすいため遺伝学的な多様性があり、世界中に数多く自生しています。キャベツも例外ではなく、もともと地中海沿岸域に自生していた野生キャベツから、多様な変種が生まれています。スーパーの店頭でよく目にする結球型の淡緑色のキャベツ以外にも、鮮緑色や赤色のものもあります。そのほかにも、次のような変種が存在します。

  • 不結球キャベツ:ケールやコラードグリーンなどのように葉が広がっている。
  • 芽キャベツ:側芽のみが房のように結球している。
  • ブロッコリー:花芽[かが]が退化し花蕾[からい]を食べる。
  • カリフラワー:花芽がさらに退化し葉緑素を欠き、白くなっている。
  • コールラビ:茎が肥大し、その部分を食用にする。
  • 芥藍[かいらん]菜:日本ではあまり出回っていないが肥大化した花茎[かけい]と花雷を食用にする。

これらは、植物学的には仲間ですが、野菜としては別々に扱われています。

イソチオシアナート

キャベツは、明治時代中期にカツレツに千切りにして添えたことで各家庭に普及したといわれています。野菜を生で食べることが一般に広く普及したのは、昭和30年代後半からで、それよりずいぶん早くから生食用として普及した珍しい野菜です。今でこそキャベツの食べ方はいろいろありますが、40代後半以降の世代は、キャベツを食ベるといえばお好み焼きかトンカツのお供にといったところではないでしょうか。

キャベツの健康機能成分として、アブラナ科野菜全般に共通して含まれるイソチオシアナートと呼ばれる成分があります。イソチオシアナートは、キャベツ特有の風味に関与し、ほのかな辛味や独特な臭いと関係しています。同じアブラナ科野菜であるワサビや大根では、その量が多いため辛く感じるのです。

イソチオシアナートは、そのままの形で野菜に存在しているわけではなく、無味無臭のグルコシノレートという状態で細胞内に隔離されています。食べることで細胞が壊れるため、異なる場所に存在するミロシナーゼという酵素の働きでイソチオシアナートが生成します(図2)。この反応を調節する役割を担っているのがビタミンCです。イソチオシアナートは、抗菌作用のある生物に対し毒性を持っています。そのため、作られすぎると野菜にとっても致命的なダメージを与えるため、無傷の状態ではビタミンCが反応をコントロールしています。ビタミンCは、グルコシノレートと同じ場所に隔離されており、ビタミンCの濃度が高いと反応が抑えられ、損傷を受けるとその濃度が薄まり反応が進みやすくなります。そのため、微生物や虫などが細胞を傷つけると、この反応が活発になり、外敵を攻撃します。ちなみに、モンシロチョウの幼虫にはこの防御システムは全く効果がなく、キャベツは食べられてしまいます。

イソチオシアナートの抗菌性は、江戸時代から経験的に知られていました。キャベツに比べてイソチオシアナート含量が高いワサビは、1697年発行の『本朝食鑑』に、「魚鳥の毒を解し、蕎麪[そばこ]の毒を殺す」と記述されています。ワサビをすり下ろしたものを餅と一緒にすると、カビが生えにくいことも「おばあちゃんの知恵袋」として知られています。現在では、食品の保存目的だけではなく、人の健康にかかわる食中毒菌・虫歯菌・ピロリ菌などに対する抗菌効果や抗寄生虫効果があることが、多くの研究によって明らかになっています。

1990年代に、アメリカ国立がん研究所において、がん予防効果が期待できる食材の一つにキャベツがリストアップされました(図3)。このとき注目された成分がイソチオシアナートで、近年では、これらの抗変異原作用や肝臓の解毒酵素誘導作用、動物実験における発がん抑制作用が報告され、日常的に摂取することで、がん予防への効果が期待されています。

最近はカットキャベツがよく売られていますが、以前は切り口が変色するという課題を抱えていました。これは植物の追熟ガスであるエチレンが、ポリフェノールオキシダーゼの働きを活発にし、変色を促進させるために起きます。イソチオシアナートは、エチレンの生成やポリフェノールオキシダーゼの働きを抑え、変色が起こらないようにします。この性質を利用して、カットキャベツ用にイソチオシアナートの含量が高い品種が用いられています。

ビタミンU

イソチオシアナート以外の健康機能成分としてビタミンUがあります。キャベツのしぼり汁から発見されたことから、別名キャベジンと呼ばれています。ビタミンというと必須栄養素になりますが、残念ながらビタミンの定義から外れているので、ビタミン様作用因子として扱われています。名前のために混乱が生じたのか、専門書でも詳しい記述が少なく、知名度が低いのが残念です。

ビタミンUは、含硫アミノ酸の一つであるS‐メチルメチオニンスルホニウム(MMS)と呼ばれ、抗消化管潰瘍性因子として知られています(図4)。総合胃腸薬の有効成分の一つでもあり、胃腸の保護に役立ちます。結球型のキャベツでは、外葉や志の部分よりも少し内側の葉に多くその成分が存在しています。類似の含硫アミノ酸であるS‐メチルシステインスルホキシド(SMCS)は、コレステロールの高めの人を対象に、特定保健用食品の関与因子として認められています。火を通すことが当たり前だった時代に、野菜を生で食べるという新しい食べ方を人々に提案し、それが受け入れられてきたのも、経験的にその効果を認識していたからかもしれません。

これらの健康機能成分は、どれも熱に弱い性質を持っています。千切りにして生で食べるか、もしくは浅漬けにするなどが、これらを有効に摂取する食べ方になります。