創作の変遷時間軸で
全37作品を「リ・クリエイト」

「光の画家」として知られる17世紀オランダの画家、ヨハネス・フェルメール(1632~75)の現存する全37作品を最新の知見とデジタル技術を使って再現した 「フェルメール光の王国展」(上毛新聞社、フェルメール・センター銀座実行委員会主催、オランダ王国大使館、高崎市など後援)が3月25日、 高崎市高松町の高崎シティギャラリー第1展示室で始まる。 350年前に描かれた当時の色彩を求め、原寸大で最新のデジタルマスタリング技術を使って全作品を再現、 その生涯と画業の秘密を探る豊富な資料も交えて展示する。4月13日まで。

会期 平成28年3月25日(金)~4月13日(水)※無休
午前10時~午後7時(最終入場6時半)
※最終日4月13日は5時まで
会場 高崎シティギャラリー 第1展示室
主催 上毛新聞社、フェルメール・センター銀座実行委員会
後援 オランダ王国大使館、高崎市、高崎市教育委員会、群馬テレビ、エフエム群馬、ラジオ高崎
協賛 赤城グループ、うすい学園、ガトーフェスタ ハラダ、クライム、群馬銀行、群馬トヨタ自動車・ネッツトヨタ高崎、JTB関東法人営業群馬支店、高山眼科、TSUNASHIMA、メガネ・補聴器の板垣
協力 ドコモCS群馬支店
入館料 一般1000円、高校生以下500円、小学生以下無料
チケット取り扱い 上毛新聞取り扱い販売店、上毛新聞社、上毛新聞社高崎支社、群馬音楽センター、高崎市文化会館、高崎シティギャラリー、煥乎堂前橋本店、文真堂(群馬音楽センターと高崎市文化会館は月曜休館)
問い合わせ 上毛新聞社高崎支社(電話027・362・4341)

よみがえる350年前の色彩

原寸大で「新しい創造」

 世界中の人たちに愛される画家、フェルメール。世界各地に点在する作品は現在、分かっているだけで37点(うち個人蔵2点、行方不明1点)ある。
 フェルメールに魅せられた生物学者の福岡伸一さんが、2007年に「作品が所蔵されている美術館に赴いて鑑賞する」という原則を掲げ、4年の歳月をかけて世界中の美術館を旅する企画を実現させた。その旅で得た着想を具現化したのが、この絵画展。世界中に散らばる作品を一挙に鑑賞し、謎の多い画家の創作の変遷を時間軸に沿って紹介したい―。その夢を現実にするために考えられたのが「re-create」(リ・クリエイト)と名付けられた今回の方法。
 全作品を最新のデジタルマスタリング技術によって、フェルメールが描いた当時の色調とテクスチャーを推測して再現し、原寸大で所蔵美術館と同じ額装で展示する。その作業は、複製でも再現でもない「新しい創造」と位置付けられた。

マリアとマルタの家のキリスト
『マリアとマルタの家のキリスト』
(1654-55年)

 最初期の作品『マリアとマルタの家のキリスト』から、後期の『ヴァージナルの前に座る女』まで、ほぼ20年の画家としての活動期間に描かれた作品は、300年の時を経て、経年劣化はもちろん、修復や洗浄などの作業を加えられたりして、大きく様変わりしている。「描き終えた瞬間はどんな色彩だったのか」。フェルメール自身が求めた光と色彩を目指す試行錯誤の〝旅〟が始まった。
 作品のリ・クリエイトにあたっては①黄系色、赤系色、藍系色の〝3現色〟(よく現れる3色の意)の効果的な使われ方②光と影のコントラストを巧みに利用し、左右前後の関係を計算しつくした空間表現による「光の魅力」③ラピスラズリの藍を用いた魅力的な表現―を意識しながら制作したという。監修の福岡伸一さんの考えに従い、色調実験を繰り返しながら修正を重ね、キャンバス生地にインキを吹き付ける方法で再現された。

窓辺で手紙を読む女
『窓辺で手紙を読む女』
(1657年)

デルフト眺望
『デルフト眺望』
(1660-61年)

手紙を書く女
『手紙を書く女』
(1665-66年)

天文学者
『天文学者』
(1668年)

ヴァージナルの前に座る女
『ヴァージナルの前に座る女』
(1673-75年)

細部に宿る思想

真珠の耳飾りの少女
『真珠の耳飾りの少女』
(1665年)

 その結果、「北方のモナリザ」とも呼ばれる代表作の一つ『真珠の耳飾りの少女』は、トルコ風のエキゾチックなターバンの藍と真珠の輝きと、かすかに変化が読みとれる背後の闇が生き生きとよみがえり、『青衣の女』では柔らかな光に覆われた質素な部屋で手紙を読む女性の青い上着が「フェルメールブルー」を際立たせた。

レースを編む女
『レースを編む女』
(1669-70年)

 最小といわれる『レースを編む女』は、レース編みに熱中する若い女性の手元に描かれた白い粒の点がポワンティエ(点綴[てんてい]技法)と呼ばれる技法で描かれている。左右の手指と2本の糸がはっきりした線で描かれ、それとは対照的に左手前のクッションからはみ出した糸は、液状に見える抽象的な表現になっている。
 こうした再現の過程を通じて福岡さんは、失われた細部に宿ったフェルメールの思想に思いを馳せ、「世界をこの目でとらえる」ことを、光学的かつ心的な過程という科学的な認識であることに還元した。
 人間の視覚が青、緑、赤の3色から構成されていることに気付いていて、青が緑や赤よりも際立って強く知覚されていることも知っていたフェルメールの発見を、分子生物学が追認したのは20世紀になってから。網膜細胞上の3種の視物質(フォトプシン)の発見によって、青に対する知覚が独立していて、緑と赤の知覚が近接していることが科学的に裏付けられた。
 福岡さんは今回の作業を「落下点とわずかに残された軌跡から、今は見えなくなってしまった発射点と仰角を推定すること」と説明している。その成果が、現物を超えて本物に接近したリ・クリエイト作品として示された。

精緻な構図、巧みな光の表現、鮮やかな青

フェルメールの技法-「ありのまま」描く-

■線遠近法(一点透視図法)

 人物や物の写実的な立体表現に欠かせないのが遠近法。フェルメールの作品はあまりに正確であることから、「カメラ・オブスクーラ」を使っていたといわれる。暗箱に小さい穴を開けて外部の光景を内側に映し出す装置で、カメラの原型とされる。フェルメールは暗箱の内側に映し出された像をなぞって描いたのではないかと推測されている。

■ポワンティエ(点綴[てんてい]技法)

牛乳を注ぐ女
『牛乳を注ぐ女』
(1658-60年)

「光の画家」の異名で知られるフェルメールの独自の表現。『牛乳を注ぐ女』『レースを編む女』などにみられる。白い絵の具を点描することによって、光の粒が輝くようにみせるテクニックで、対象物がスポットライトを浴びて浮かびあがるような立体感が生まれる。

■フェルメール・ブルー

青衣の女
『青衣の女』
(1662-64年)

代表作『真珠の耳飾の少女』や『青衣の女』などに共通する青色は「フェルメール・ブルー」と呼ばれる美しい青色。この青は、とても高価で希少な鉱物のラピスラズリを原料としている。青色をいっそう引き立てるため、補色の黄色の顔料も多用したという。

ようこそ、光の王国へ
福岡伸一(生物学者/本展総合監修)

 フェルメールに魅せられた者として足かけ4年にわたって世界中を旅し、彼の作品をつぶさに観てまいりました。その結果、痛切に感じたことは、フェルメール自信の旅路を、時間の軸に沿って追体験することなしには、フェルメールをほんとうに理解することはできないということでした。
 画家を志した20歳のころ、彼は迷っていました。自分のスタイルを見つけることができないでいたのです。やがて彼は、自分がなにをどのように描くべきかを徐々に見出していきます。静けさの中で女性がたたずみ、手紙を書き、あるいは楽器を奏ではじめます。物語のない物語が語られはじめます。いわゆる「フェルメールの部屋」の発見です。やがて彼は光の粒を自在に操ることができるようになり、時間を止めることに成功します。そして数々の傑作を生み出すのです。そのみずみずしい過程を知るために、彼の全作品を製作年順に並べて、その場を行きつ戻りつしながら鑑賞することができれば、どんなにすばらしいことでしょう。
 私は夢想をかたちにするひとつの方法を思いついたのです。このほど私たちはフェルメール理解へのひとつの試みとして、現存する全フェルメール作品を最新のデジタルマスタリング技術によって、彼が描いた当時の色調とテクスチャーを推測して、原寸大で、所蔵美術館と同じ額装を施して一堂に展示する場所を作ろうと考えました。それを可能としたのが、リ・クリエイト画像技術であり、それを実現したのがここ、「フェルメール光の王国」です。
 フェルメールがたどった軌跡を存分に楽しんでいただくことができるように工夫をこらしました。どうぞ自由に、ご自身のフェルメールを発見してほしいと願っています。(「フェルメール光の王国展」総合監修あいさつより)