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視点 オピニオン21
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両毛漁業協同組合長  中島 淳志(桐生市川内町)


【略歴】奥羽大文学部英語英文学科卒。アパレル関係の仕事の傍ら、漁協に従事。2010年、組合長に就任。釣り専門誌に執筆し、フライフィッシング講師も務める。


親魚放流の試み



◎自然本来の姿を忘れず


 今年も9月21日から、群馬県ではヤマメ、イワナ、サクラマスが禁漁期間に入った。この時期にヤマメ、イワナ、サクラマスなどが産卵期を迎え、また、サケの産卵遡そじょう上における関心も一層高まる中で、河川では当たり前のように神秘の営みが繰り広げられるわけである。

 そんな中、先日渡良瀬川で、河川近隣にお住まいの方々と一緒にヤマメの親魚放流を行った。これから密漁の監視も含め、親魚の産卵を見守りたいと協力してくださっている。昨年の暮れごろであったか、渓流魚の有効な増殖方法の一つとして親魚を放流するという話を耳にし、日ごろ大変お世話になっている養魚場の専務に「ヤマメの親魚放流をしたいのだが」と聞いてみたことがある。そんな話を覚えていてくれた専務のご厚意で、これから産卵する親魚を提供していただいたのだ。

 今年2月、岐阜県河川環境研究所によって渓流魚の親魚放流についての研究成果をまとめたものが紹介された。当組合管内の河川においても有効な放流方法と思い、今後の放流計画に取り入れる構想を練っていたころ、日本釣振興会群馬県支部長さんと、互いのビジョンを熱弁し合う中で親魚放流が話題に上った。そこで「親魚放流を試み、長い目でその成果を見ていけたらいいよね」と意見が合致した。このことを群馬県水産係に相談したところ、群馬県水産試験場によって親魚放流の実証試験調査をしていただけることとなり、現在、来年に向けて調査実施に踏み込むための基盤が形成されつつある。

 日ごろ「釣れないからもっとたくさん魚を放流してほしい」などといったご意見を頻繁にいただく。私も釣り人の一人としてその気持ちは痛いほど分かる。だからこそ、いかにしてより多くの釣り人のニーズに合い、そのうえ河川環境に適したより良い増殖の放流を考えるべく粒々辛苦している。こういった問題の解決策として、すぐに釣りの対象となる魚を放流すれば済むと思われがちだ。魚がたくさんいればたくさん釣れるというのは間違ってはいないと思うが、だからといって、むやみに魚を放流すればよいという考え方はあまりに破滅的で意味のないことである。

 人間が自然の生態系の一部であり、人間の生活圏もそこに従事できているならば、人類の釣り文化というのも自然の形態にかなり深く関わっていると思っている。これからは目の前の私利私欲を通すよりは、より健全な生態系の保全であったり、維持であったり、形成であったり、山も川も魚も鳥も、動物も虫も植物も人間も、それぞれが健康的に生きられることを考える方が、われわれ釣り人にとってもいいと思うのである。より自然な、本来あるべき姿を忘れずに先を見据えていかなければならないと思うのである。






(上毛新聞 2013年10月25日掲載)