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群馬県のニュース

〈シーンぐんま〉町工場の技能実習生 節約生活 夢への布石 

更新日時:2016年3月13日(日) AM 06:00
 むき出しの鉄骨、鈍く灰色に光るパイプや排気ダクトが頭上に伸びる。天井から下がったパネルには「切削工程」の文字―。蛍光灯に照らされた町工場の一角で、アリフ・ヒダヤット(24)は、黙々と作業に打ち込んでいた。3トンほどの工作機械を操り、金属シリンダーを取引先の要望に合わせてミリ単位の誤差もなく削り出す。午前10時47分、完成品を指示書の寸法と照らし合わせると、目つきを和らげて、表情に満足の色を浮かべた。

 インドネシア・ジャワ島出身のアリフは、2014年4月に来日した技能実習生だ。18歳で地元の専門学校を卒業して現地の日系企業工場に職を得たが、「日本で働いてみたい」との思いを拭えず、実習制度の門をたたいた。同年6月から群馬県大泉町東小泉の輸送機器部品メーカー「モテギ」で金属加工技術を学ぶ。

 工場から自転車で10分ほどのアパートに同国出身者5人で暮らす。敬虔(けいけん)なイスラム教徒でもあり、毎朝午前5時に起きて聖地メッカへの礼拝を欠かさない。仕事では昨年秋に「NC旋盤」と呼ばれる工作機械のオペレーターに抜てきされ、自動車や船舶に使われる金属部品の加工を受け持つ。大泉町は近年、自動車などを中心に企業業績が好調だ。アリフの手がけた製品は、東毛周辺に拠点を持つ大手メーカーに納品され、「メード・イン・ジャパン」として国内外に売り出される。

 月給は15万円ほど。ぜいたくはできないが、インドネシアの平均給与と比べれば好待遇だ。居住費や社会保険料などが引かれた手取り額から両親への仕送りや毎月2万円の貯金を捻出している。節約のため、仕事のない時は本を読んで過ごすことが多いという。

 技能実習生は今、県内で右肩上がりだ。法務省の統計では、15年6月に県内5211人が在留し、比較可能な10年12月の2倍を超えた。その大半を占めるのが中国やベトナム、インドネシアなどのアジア諸国出身者だ。彼らの法的身分は労働基準法や最低賃金法などに守られた「労働者」で、アリフも最低賃金以上の給与を保証され、所定労働時間などを定めた雇用条件書を交わしている。

 途上国の人材育成を目的に始まった制度だが、一方で課題もある。全ての実習先で労働環境が整っているとはいえず、群馬労働局が14年に立ち入った95事業所のうち、8割近くで時間外労働や賃金未払い、安全配慮義務違反などの法令違反が発覚した。15年中に実習先から逃げ出した実習生は全国で5803人と5年前の6倍近くに増加。打開に向けて、監督機関の設置や実習生の人権保護を目指す新法案が国会で審議されている。

 アリフの実習期間はすでに折り返しを過ぎた。帰国後の目標は友人とオートバイの整備工場を立ち上げることだ。モテギの切削技術は、オートバイの部品加工にも大きく役立つという。「金持ちにはならなくていい。ここで学んだ技術力を生かして、自分の足で立てるようになりたい」。群馬での3年間は、夢への大きな布石だ。(敬称略、寺島努)

※詳しくは「上毛新聞」朝刊有料携帯サイト「上毛新聞ニュース」でご覧ください。

真剣な顔つきで完成品の寸法を確認するアリフさん。日本人上司は「仕事の覚えが早く、同僚からの信頼も厚い」と高く評価