文字サイズを変更する
小
中
大
 

視点オピニオン21

映画館とSNS 大事な場所や情報は何

映画監督、脚本家 飯塚健
 
 「この辺まで波が来たからねえ」「誰々と誰々、亡くしてるからさ」「隣の壁まで家が傾いちゃって」「あの日この道を通っていたら、今ここにいないよ」…などと、東日本大震災に関することを笑って話されると、どんな顔をしたらいいかわからなくなる。

 久しぶりに会えた岩手県沿岸部・宮古で暮らす皆さんはやっぱりあったかい愛にあふれていて、やっぱりこちらが元気を頂戴する始末だった。約90キロも離れた盛岡駅まで迎えに来てくれ、遠目に私たちの姿を見つけるなり大きく手を振り、改札を通るや「監督、お帰りなさい」と握手をしてくれた。もうその瞬間から、来られて良かったと、ずっと思っていた3日間。

 「飯塚健監督特集」と題していただいたイベント上映で、映画『ブルーハーツが聴こえる』と『笑う招き猫』の併映があったのだ。場所は地域唯一の映画館「みやこシネマリーン」。実はここ、昨年9月に閉館に追い込まれてしまった。そのため現在は月に数日、こうした特別プログラムを上映するにとどまっている。シネコン全盛の今だからこそ、こういう映画館が常設に復活してほしい。映画は漫画原作のものがすべてじゃない。むしろ、そちらの方が亜流だ。世界に通じる映画はいつだって、渋谷のシネマライズやシネカノン、そしてシネマリーンのような独立系の映画館が育ててきたのだ。

 そしてもう一つ、違ったベクトルで紹介したい映画館がある。映画の音声ガイド。ピンと来ない人の方が多いだろう。視覚に障害がある方にも映画をより深く感じていただけるよう、画面に映る情報を補助する音声のことだ。

 セリフがあるシーンは見えなくても聞こえる。が、セリフではなく表情で伝える画は、見えなければ単なる間になってしまう。風景描写なども同じ。そういった部分をイメージしやすいように音声で補助をする。例えば、「雪が降りしきる、一面銀世界。そこに1本だけ生えている木の下に、キツネがいる」というように。

 そんなガイドを、実際に障害がある方との共同作業で作らせていただいた。貴重な体験だった。印象的だったのは、画がない分、ついつい説明過多になってしまう私に、「そんなに丁寧に教えてくれなくても、十分わかりますよ」と笑ってくれたことだった。

 音声ガイドが聞けるイヤホンジャックが全席に整備されている日本初のバリアフリー映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」は東京都北区にある。完全防音のブースもあり、小さい子を連れていても周囲に気兼ねなく映画を鑑賞できる。素晴らしく画期的だ。

 そういった情報が、これだけ情報化社会と言っておきながら、全然行き届いていないのはなぜなんだろう。あらためて思うが、SNSなど最先端でも何でもない。



映画監督、脚本家 飯塚健 東京都渋谷区

 【略歴】渋川市生まれ。映画監督。脚本家。代表作に「荒川アンダーザブリッジ」シリーズ、「REPLAY&DESTROY」など。最新作は「笑う招き猫」。

2017/09/12掲載