文字サイズを変更する
小
中
大
 
 

《移住者の四季 春3》下仁田・沼田さん一家 地域の味伝承に奮闘 

 
 藍色の暖簾(のれん)の向こうの店内は、10人ほど座るといっぱいになる。野菜の甘みが溶け出したスープが太麺になじむタンメン、注文を受けてからタネを包み「ジュワー」と食欲をそそる音を上げて焼かれるギョーザ。看板メニューのうわさを聞き付けた来店客が舌鼓を打つ。

 「熱いので気を付けてくださいね」。名物のタンメンを差し出すのは、沼田香輝(24)。下仁田町の中心街で長く住民に愛されている飲食店「一番」で修業中だ。

 神奈川県出身の沼田は、下仁田で2度目の春を迎えた。「食の伝承」を任務とする地域おこし協力隊員として移住したのが昨年春。町は中心街に残る昭和レトロの雰囲気を観光コンテンツの一つに据えており、沼田は「一番」の味を守ろうと日々、奮闘している。

 ギョーザをテーマにした都内のアミューズメントパークで3店舗を任されていた沼田。食の伝承者を募っていた下仁田は非常に魅力的だった。しかし町の雰囲気は分からぬまま。不安を抱いて足を踏み入れた。

 中心街をスーツ姿でうろつく見慣れぬ青年に、住民は明るく声を掛けた。「何かあったら言ってな」という言葉に、移住の不安はなくなっていった。

 決断の背景には青森県出身の妻・優希(29)の言葉もある。「やりたいと思うならやった方がいい。(協力隊最大任期の)3年後、その時にしっかり考えればいい。私も一緒だから」

 店ではタンメン作りを任されることも。常連から「タンメンとギョーザ、沼田君が作ってよ」と指名が来るのだ。中華鍋を振るう姿を、店主の大串秀夫(78)は優しい瞳で見つめる。最後の味見は秀夫の妻、房子(78)。「もう少し塩を足した方がいいかな」。沼田の優しい性格が味付けに出てしまうようだ。

 バイクに乗って出前にも行く。配達先では「お茶飲んでいきなさい」と声を掛けられるなど、すっかり街の顔だが、親しまれている理由は人懐っこさだけではない。消防団員でもあり、早朝の町内清掃にも一生懸命取り組む「一番」以外の姿を町民が知っているからだ。
 町内の保育園で働く優希と共働きしながら、これからも地域の味の伝承を模索していく。夏には新たな家族が増える予定。忙しい1年になりそうだ。(敬称略)

“師匠”の大串房子さんに見守られながらタンメン作りに励む沼田さん(左)

  • 上毛新聞を購読する
  • 上毛新聞に広告を載せる
URLを携帯へ転送 右のQRコードから上毛新聞モバイルサイト「じょうもばいる」にアクセスできます