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《移住者の四季 春2》片品・五十嵐さん一家 尾瀬の麓で伸び伸び 

 
 雪はすっかりなくなり、片品村中心部の鎌田地区に遅い春が訪れている。小雨が降る4月のある土曜日、山々に囲まれたのどかなたんぼ道で、愛犬コータローの散歩をする家族4人の姿があった。

「子どもの顔みんな分かる」
 「ともやん、きょう午前中は何した」。五十嵐寛明(40)が、長男の睦泰(ともやす)(7)に話し掛ける。「児童館で友達とホッピングして遊んだ。11回跳んだよ」。8カ月の次男、嵩倫(たかみち)を背負いながら会話を聞いていた妻ののぞみ(34)は、そっとほほ笑んだ。

 睦泰はこの春、片品小2年に進級した。同級生28人とは保育園から中学までずっと一緒の教室で学ぶことになる。「みんな子どもの顔が分かるし、親も知っているからトラブルもない。ちょうどいい人数だと思う」。のぞみは、小さな村の学校への不安は感じていない。片品で子育てする母親の一人として、現実を当然のように受け入れている。

 睦泰の成長は、寛明とのぞみが結婚し、この村に暮らした年月と重なる。福島県出身の寛明は、尾瀬の山小屋に生活物資を運ぶ歩荷(ぼっか)を務める。シーズン以外は、村内のスキー場で人工降雪作業をしたり、川場村の酒蔵で酒造りに取り組んだりしている。

 のぞみは熊本県出身。信州大卒業後、「文明のない生活」を求め、ネット検索で見つけた尾瀬の山小屋「竜宮小屋」で働いた。2人はここで出会うことになる。翌年からのぞみも歩荷となり2シーズン目が終わると、育んできた愛を成就させた。

 結婚と前後して、隣接する沼田市利根町から職場により近い片品の貸家に引っ越した。睦泰が生まれて間もなく、中学卒業までの十数年を見据え「賃貸料を払い続けるよりも形が残る」と鎌田地区にある中古の2階建て住宅を購入した。小、中学校が徒歩圏内にあることが決め手だった。

 19歳から山小屋「至仏山荘」で働き始め、2年後に歩荷となった寛明。「福島の実家も自然に恵まれていたので、田舎暮らしに憧れたわけではなかった。仕事があったから」と本県に来た当時を振り返り笑う。実家はノリ養殖業を営み、海が遊び場だったのぞみも同じだ。縁がつながり、引き寄せられたのがこの土地だった。(敬称略)

片品の豊かな自然の中、愛犬コータローの散歩を楽しむ五十嵐さん一家