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視点オピニオン21

未来への投資 若者支援の立ち見席

バイオリニスト 篠原郁哉
 
 音楽の都ウィーンの魅力はその音楽性、芸術性の高さにある。しかし、その文化をつくり上げる上で社会全体が未来への投資を行っており、それが積み重なり文化を生み出しているのである。

 その未来への投資とは何かというと、若者への支援である。一番その支援がわかるのが、コンサートチケットのシステムだ。

 若者だけでなく全ての観客が手軽に買うことができるのが立ち見席のチケットである。これはホールや演目によって値段が変わってくるが、ウィーン国立歌劇場では約200円から600円という価格で手に入れることができる。もちろん上演中はずっと立ち見になるので疲れてしまうのだが、その値段で本物の音楽、芸術に触れるチャンスがある。また若者に人気のミュージカルなどは、当日の余ったチケットを一律約1000円で販売している演目もある。

 ただし、どちらのチケットも当日しか販売しておらず、開演1~2時間前には販売の列が出来ており、立ち見席となるとさらに体力を使うのだが、若者にとってはその苦労よりも間近で本物の芸術を堪能できるのであるから、文句はない。一見、空席をつくるよりは安く販売して客席を埋められるという営業目的としてのサービスの側面もあるのだが、実はこれが未来への投資へとつながっている。

 一度でもホールに足を運び、本物を観(み)てしまうとその迫力や空気の振動、舞台と客席の一体感など多くのことを体験するのであるから、若者にとって大きな刺激になるのは間違いない。そして「投資」という意味は、その若者たちが大人になり、社会人になった時に正規の値段のチケットを購入し、ホールへと戻ってくるのである。

 ウィーンのほとんどのホールで「学生券」というカテゴリーは26~28歳未満の学生という条件がついている。余談だがヨーロッパの大学システムが卒業を重視しており、課題も多いことから卒業が非常に困難である。ウィーンの大学生はアルバイトをする時間さえ無いほどに勉強をしている。

 日本ではこのような未来への投資と称して「無料」という形を取ることが多い。しかし、私はこの無料こそが一番の無駄な投資になっていると考える。小学生にもなるとお金の価値を理解し、消費活動にも参加している。そこで「無料」でもらえるモノにお金を払ってでも欲しいという欲求が出てくるのであろうか。たとえ200円であっても、お金を払ってコンサートを楽しみ、何かを得るという体験こそが未来への投資へとつながっていると思う。

 日本におけるクラシック音楽の需要というのは確実に下降しているのが現実であり、このような未来への投資がより重要かつ急務になっていると思う。



バイオリニスト 篠原郁哉 高崎市下小鳥町

 【略歴】新島学園高を卒業後渡欧し、私立ウィーン音楽院教育科バイオリン専攻を最優秀成績で卒業。アプラウスミュージック主宰、高崎アーツコミュニティ代表。

2017/03/09掲載
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