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視点オピニオン21

多肉植物の魅力 前衛的でアートな姿

サボテン相談室代表 羽兼直行
 
 今年の春、穏やかな朝に全盲のお客さまが支援団体の女性に付き添われて私の温室を見学に来ました。70歳くらいの全盲の男性は支援者の説明に促されて、次々と多肉植物に触れ、その姿を鑑賞し始めました。刺(とげ)のあるサボテンには触れないようにして、多肉植物の形を楽しんでいます。葉の色や花の色は支援者が慣れた口調でフォローしています。全盲の男性は多肉植物が好きでたまらないと言ったほほ笑みを浮かべながら、私にも質問を投げかけて来ます。「この丸い葉の植物はなんという名前ですか」「これは持っていないので欲しいな」。その時私は、あらためてサボテン、多肉植物の形の面白さを再認識したのです。

 サボテン、多肉植物の形に魅せられた小学生当時の自分を思い出したような気がしました。その頃、私の家の庭には園芸好きの父が育てるバラなどが植えられ、きれいな花を咲かせていました。私はその片隅にあまり世話をされていないサボテンを見つけました。それは庭にある全ての植物に比べて圧倒的にユニークな姿をしていたのです。

 大学では美術を学び、すっかりビジュアル系の人間になった私はその姿に魅せられ続け、約60年間サボテン、多肉植物を栽培し続けています。地球の乾燥地帯で生きていくために進化したもの、膨大な時間の経過の中で、地球環境の砂漠化に順応し進化したものなど、その姿はあまりにも前衛的でまるでアートです。

 約1万5000種もの種類はそのバリエーションの多さも魅力です。乾燥地で生きていくために普通の樹木の姿から今の姿に進化したサボテン、多肉植物の形の不思議は、いろいろとあります。人類が発明した道具などと似た、機能的な部分を見せてくれます。柱サボテンのヒダはイオニア式の円柱と同じ機能があり、ヒダのない円柱より強度を増し、倒れにくいのです。また丸いサボテンのヒダは自動車やエアコンのラジエーター(冷却装置)と同じで温度調節をしています。

 自分では移動できない植物は、生まれたその地で、その地にあった姿になり生きていくのです。昆虫や他の植物の一切を寄せ付けないナビブ砂漠にひっそりと生き続けている1科1属1種の植物離れした奇想天外な多肉植物があります。その名も「奇想天外」。発芽した時から2枚の葉のみが伸び続ける、それはまるで悪魔の髪のように見え、その葉の先端は風に引きちぎられ、恐ろしい姿でひっそりと砂漠の中で100年もの生涯を生き続けるのです。

 人間も考えてみれば天涯孤独な生き物、一人で生まれ、そして一人で死んでいく、どんな境遇の中の一生だとしても皆同じです。植物から教えられることにも素直になれる人間として、残りの人生をサボテンと共に生きて行きたいと思います。



サボテン相談室代表 羽兼直行 館林市千代田

 【略歴】桐生市生まれ。日本大芸術学部卒。小学生のころからサボテンを栽培。東京と館林市にサボテン相談室開設。台湾で建設中のサボテン公園の総合演出を手掛ける。

2017/07/08掲載