食卓に“春”を届ける

春を告げる食材として親しまれているフキ。独特な苦味と香りが特徴で、わが国原産の山菜だが、栽培が盛んになったのは江戸時代以降と言われる。苦味、香りのいずれの成分にも抗酸化作用があり、古くから薬草としても利用されてきた。茎をしょうゆで煮しめた伽羅蕗[きゃらぶき]や天ぷら、煮物など調理法はいろいろ。ぜひお好みの方法で賞味してほしい。

フキ栽培 昭和村
山後 正志さん(41)

なだらかな斜面に大きなビニールハウスが列を成している。長さ45m、幅5.4mのハウス内は、青々としたフキの葉で埋め尽くされている。近づくと独特の香りが鼻をつく。

「大きいものは1mを超えるほどに育ちます。大切な茎の部分を傷付けないように、鎌で根元から1本1本ていねいに刈り取って収穫します」と山後さん。毎年4棟のハウスで栽培しており、栽培面積は合わせて10a、収穫量は4t近くに上る。

忙しいこの時期は、両親と3人のパート、今年から加わった研修生の力を借りて、刈り取りから選別、ラップによる包装、箱詰めまで、一連の作業をこなす。

大きなフキは茎の長さが1m以上に成長する

施設栽培で大規模化

農家の長男として生まれた山後さんが、農業後継者として就農したのは16年前。大学を卒業後、神奈川県でサービス業の仕事に従事していたが、父親の芳範さん(65)が体調を崩したのを機に帰郷した。

「農業は天候に左右されやすいですが、努力や工夫次第で品質向上や収量アップなど、目に見える形で成果を上げることができるので、とてもやりがいがあります」と力強く語る。

就農した当時はコンニャク栽培が中心だったが、一年を通じて計画的に栽培が可能なホウレンソウや収益性の高いイチゴに、少しずつスタンスを移していった。フキもその一つで、山後さんにとっていまや農業経営の主力3品となっている。

こうした営農転換のきっかけとなったのは、20年ほど前に赤城山西麓で行われた国営かんがい排水事業だ。「畑に給水栓が設置されたことで、施設野菜の大規模栽培が可能になりました」と、芳範さんは当時を振り返る。後を継いだ山後さんは規模の拡大に努め、現在は4棟のハウスでフキを栽培するほか、基幹作物のホウレンソウは31棟、イチゴは6棟で生産している。

成長早く1m以上に

「フキはあまり手のかからない作物なんです」と山後さん。夏場の除草と水の管理、施肥に気を付けるほか、連作障害を避けるために3年に1度、ホウレンソウのハウスと交換して根株の植え付けを行うくらいだという。

かつて愛知県の農家に研修で訪れたという山後さんは、現在、JA糸之瀬フキ部会(会員27人)の部会長を務め、栽培に関する技術研修や情報交換などを積極的に行っている。

フキは成長が早く、芽を出してから1カ月半ほどで収穫できる。そこで、収穫期は取り遅れがないように注意しなければならない。また、茎が折れやすく鮮度も落ちやすいので、刈り取りは慎重に行い、収穫後は素早く選別や箱詰めをして、短時間のうちに出荷するよう努めている。

「収穫したばかりのフキは、香りが豊かで柔らかく、とてもおいしいです」と山後さん。好きな食べ方は油炒めと、ニシンや油揚げと一緒に煮る煮物だという。


元気な暮らしに役立つ栄養のお話…荒井 勝己 桐生大学医療保健学部栄養学科准教授 独特な食感と味

フキはキク科フキ属に属する多年生草本で、英語名Japanese Butterburからも分かるように、数少ない日本原産の野菜です。風味が良く早春を代表する食材として、沢や斜面、川の中洲や川岸、郊外でも河川の土手や用水路の周辺に見られ、風があまり強くない水が豊富な土地を好み繁殖しています。栽培品種として愛知早生フキ、水フキ(京フキ)、秋田フキなどがあります。地上には花芽と葉が出ていますが、茎の部分は地中に伸びていて、“フキ”はその地下茎からでてきた葉の柄の部分にあたります。また、春一番にフキの地下茎から出てくる花の蕾が“フキノトウ”です。

成分特性

一般に食用とされる葉柄部は、水分が非常に多く、栄養素としては特に顕著な成分は認められません。フキには肝毒性が強いペタシテニン(別名フキノトキシン)などの有毒成分が含まれているため、抜きをする必要があります。また、クロロゲン酸やケルセチン、フキノンといったポリフェノール類を多く含みます。皮をむくと茶色く褐変するのは、これらのポリフェノール類にポリフェノールオキシダーゼという酸化酵素が作用するためです。ポリフェノール類の渋味やフキの特徴のある香り成分として知られるフキノリド、食物繊維が多いことによる独特な食感などによって、日本人の嗜好に受け入れられた食味をもっています。

収穫量第2位

農林水産省が発表している「作物統計」(2016年)によると、全国のフキ収穫量は11,200tで、収穫量のトップは栽培品種としてシェアの高い「愛知早生フキ」を生産している愛知県で4,490t(40.1%)、第2位はわが群馬県で1,340t(12.0%)です。以下、大阪府972t(8.7%)、福岡県525t(4.7%)徳島県501t(4.5%)と続き、沖縄県や鹿児島県、宮崎県など暑い地方では、自生しているフキはありますが、ほとんど栽培はされていないようです。群馬県の近隣県をみても長野県が第8位で239t(2.1%)、栃木県が第19位で91t(0.8%)と、関東で食されているフキは群馬県産である可能性が高いといえます。