silk Gunma Naterial Silk New Classic since2020 Presented by Gunma Pref 群馬県工業振興課「群馬県産シルク製品PR事業」

> ぐんまシルク対談

扱いが難しい、 特別な日にしか使えないなど、 シルク製品に対する思い込みは ありませんか―。
古くから 養蚕・製糸・織物が盛んな群馬県では、 着物など伝統のシルク製品に加え、
アクセサリーやインテリアなど、 暮らしを彩るプロダクトもつくられています。
刺しゅうメーカー 「笠盛」デザイナーの片倉洋一さんと、
座繰り・染織家の中野紘子さんに その挑戦と県産シルクについて 語ってもらいました。


軽さ、上品さ、この土地らしさ シルクの魅力

■軽さ、上品さ、この土地らしさ シルクの魅力

中野 工場を見学させていただき、ありがとうございます。機械だけれど、糸のテンションや季節に応じて調整するところは手仕事みたいで共通点を感じました。刺しゅうは平面のイメージなのに、独立した立体になっていて、本当に革新的ですね。

片倉 ありがとうございます。「笠盛」は、創業142年の刺しゅうメーカーで、0(ゼロ)3つで「000」(トリプル・オゥ※)という自社ブランドを立ち上げて、今年10周年を迎えます。刺しゅうの技術を使いながら、「ワクワクするものづくりを世の中に発信したい」と思ったとき、この土地らしい、笠盛らしい素材として自然な流れで行き着いたのがシルクでした。
シルクの軽さや光沢感、上品さなどを生かし、シンプルで使いやすく、今の時代に合うパール風なシルクネックレスができたらいいなと生まれたのが、スフィア(球体)というシリーズです。お蚕さんが糸を吐いてつくった繭をほどいて、また丸く戻す―みたいな感じですね(笑)。
中野さんは碓氷製糸にいらっしゃったんですよね。

※000(トリプル・オゥ):3つの「0(ゼロ)」は、素材、技術、デザインを表す。“ゼロから新たな価値を創造する”というモノづくりへの強い思いが込められている

中野 はい。私は就活氷河期世代で(笑)。東京で就職した後、地元ぐんまに戻ってきて、手に職をつけたいと思っていたとき、群馬に古くから伝わる座繰りという糸をつくる技術に出会いました。もともと布が好きで、糸から布をデザインすることも、シルクという素材にも魅力を感じました。翌月には碓氷製糸に住み込みで働かせてもらい(笑)、製糸技術を学びました。2003年にアトリエを設立し、座繰りで糸をつくり、染め、織りまで手掛けています。

片倉 そちら(襟元)のスカーフも中野さんの作品ですか?

中野 そうです(笑)。もう10年ぐらい愛用しています。シルクは「自分で育てる」といいますが、使うほどにその人に馴染み、光沢やしなやかさが生まれる。機能性に富み、長く使える「経年変化」もシルクの楽しみですね。
私が手掛ける座繰り糸は織物になることが多いのですが、毎日、糸と向き合ううちに、素材としてではなく、「糸を主役としたプロダクトを制作したい」と、2017年に「SIHAKU-絲帛」というオブジェを発表しました。照明にしたり、アロマディフューザーにしたり、身近な暮らしのインテリアとして楽しんでもらっています。現在は、ガラスや木、陶器などの異素材と組み合わせたプロダクトを制作する準備を進めているところです。

片倉 それは、おもしろそうですね。完成が楽しみです。

片倉さんのアイデアスケッチ
中野さんのスケッチと設計図

■人がいて、技がある 産地の伝統×アイデア

中野 「トリプル・オゥ」の開発について伺いたいのですが、新しいものに挑戦するとき、職人さんは躊躇されたと思うんです。どのように乗り越えられたのですか。

片倉 最初は会社のだれもが刺しゅうで球のカタチがつくれるとは思っていなかったので、反発がすごかったですよ(笑)。僕自身もどうすれば立体にできるか、着地点が見えてこなかった。

中野 それでも、「できる」と信じたのですね?

片倉 「できる」というより、「つくりたい」という思いが先行しましたね。素材でいえば、これまで糸は既製品を買っていましたが、「ほしい糸がなければオリジナルをつくろう!」と、生糸を撚糸し、染めてもらって…と一つひとつ可能性を広げていきました。その点、桐生というまちは、すごいです!いろんな職人さんがいて、プロフェッショナルな分業制で成り立ち、市内に県繊維工業試験場もあり、相談すれば応えてくれます。

中野 糸を撚糸するところからオリジナルなんて、すごいですね。

片倉 撚糸加工は、試験場にお願いしています。

中野 それは産地にいる強みですね。試験場もあるし、桐生は機屋さんもあり優れた技術者もいらっしゃいます。そして、養蚕農家さんがいて、碓氷製糸があり、私もよく周りから「群馬は環境に恵まれている」とうらやましがられます。

片倉 産地の牽引力なのか、最近、IターンやUターンで人が集まってくる印象があります。新しい発想を持った人たちと、積み重ねてきた経験を持つ技術者が融合して新しいアウトプットをつくり出しています。伝統だけだと時代にはマッチしないし、アイデアだけではクオリティーが伴わない。そのバランスが大切かなと思います。

中野 まさに「伝統と革新」による、ものづくりですね。

コミュニケーションから生まれるもの

■コミュニケーションから生まれるもの

片倉 いつも糸が巻かれている状態を見て、キレイだなと思っているのですが、「SIHAKU-絲帛」は、糸の繊細さや光沢感がそのままカタチになっていてステキですね。この丸みが繭っぽい感じで、すごくいいです。

中野 ありがとうございます!生糸を主役とした新しいプロダクトを生み出せたことは、私自身、シルクの可能性を広げるきっかけになりました。丁寧に大切にお蚕さんを育ててくれる養蚕農家さんの顔が見えるからこそ、県産シルクに愛着が持てるような発信をしていきたい。シルクは糸のつくり方によって、つややかな質感にも、紡ぎのようなざっくりとした質感にもなります。

片倉 中野さんが手がけている異素材との組み合わせも、すごく興味があります。

中野 ガラスの作家さんとのコラボレーションは、私たちが想像できなかった化学反応があり、驚いています!これまでの経験値で発想の範囲を狭めてしまいがちですが、失敗するのは当たり前。決めつけずに挑戦することで気づくことってありますよね。まだまだ試験状態なのですが、ガラスや陶器と組み合わせて次につながるものがお届けできるかなと期待しているところです。

片倉 手掛けたシルク製品の魅力をどう発信していくかも課題ですよね。トリプル・オゥの開発により、製品をどう発信し広めていくか、社内チームでよく話し合いをするようになりました。うちはこれまで刺しゅうメーカーとして、ものづくりのクリエーションに強いこだわりを持っていましたが、ブランドを持つと、クリエーションとともに世の中とどうコミュニケーションするか、その両方のバランスが大切だと気づきました。本社工場に併設したファクトリーショップを月3回オープンし、お客さまの声を直接聞ける機会をつくり、商品が生まれた背景などもお話しさせてもらっています。

中野 お客さまの声はありがたいですよね。シルクと異素材との組み合わせも、「思いがけないものが生まれたらほしい」というお客さまの声がきっかけでした。SNSでの発信もありますが、ユーザーが求めているものを敏感にキャッチし、ブラッシュアップしていきたいです。流行ではなく、制作過程を見せたり、オリジナリティーを発信していくことが大切かなと思います。

000の代名詞、材料にシルクを使ったパール風ネックレスの「スフィア」
000の代名詞、材料にシルクを使ったパール風ネックレスの「スフィア」
インテリアとして楽しんだり、中に香りグッズを仕込んだり。アイデア次第で楽しめる中野さんの「SIHAKU」
インテリアとして楽しんだり、中に香りグッズを仕込んだり。
アイデア次第で楽しめる中野さんの「SIHAKU」

■ものがあふれる時代、県産シルクの可能性

片倉 糸ができるまでの道のりって、すごく長いですよね。まず、養蚕農家さんが桑の葉を育てることから始まる。蚕は繊細でデリケート。体調管理に気を配りながら、大切に育てることで良質な繭になる。それを碓氷製糸の人たちが糸を引き、生糸ができる。生糸1本の細さは、21デニールといって、髪の毛1本より細い。それを必要な太さに撚糸してもらって、染めてもらって、そうしてやっとうちにくる。皆さんの大変さを知りながら、どう素材に寄り添い、生かしていくかが、僕たちの使命だなと感じています。

中野 そうですね。課題だなぁと思うのは、私は県産シルクで昔ながらの座繰りにこだわっていますが、お客さまはそうではなく、デザインとか予算に合うかで選ばれる。自分のこだわりとお客さまが求めている差をどう埋めていくか。ここは結構、むずかしい。つくり手だけではなく皆さんのチカラで県産シルクの良さを発信してもらうためにも、今回のような機会はとてもありがたいです。

片倉 本当にそうで、県産シルクだからということだけを売りにするのは、なかなか受け入れてもらえないですよね。では、なぜ県産シルクなのか―。僕たち笠盛は、142年の間、桐生というまちで糸に関わる仕事をしてきました。
ものがあふれている時代だけれど、なくなるとさみしいもの、困るものが、養蚕だと思う。養蚕は産業でありながら、群馬に代々引き継がれてきた文化。文化的な背景などのストーリーも含めて、この価値をエンドユーザーに伝えていくことが僕たちのミッションだと思っています。そのためにも、ブームではなく、お客さまが求める半歩先を目指すことを理想としながら、継続的に活動していきたい。「あのとき、あのシーンでつけていた」という記憶と一緒にその人の人生に寄り添うような、そんなものづくりをしていきたいですね。

中野 そうですね。これまでの伝統的な技術だけではない可能性がシルクにはまだまだあると思う。人に感動を与え、大事に愛用してもらえるような、今までにない糸のカタチを完成したいと思っています。

片倉 次につながるプロダクト、楽しみですね!今度アトリエに遊びに行かせてください。

中野 ぜひ。座繰りは糸の太さがいろいろできるので、これをきっかけに新しい何かが生まれたらステキですね。

笠盛「000」デザイナー・マネージャーの片倉洋一さんと座繰り染織家の中野紘子さん
笠盛「000」デザイナー・マネージャー
片倉洋一さん
神奈川県生まれ。大学卒業後、ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート・アンド・デザインで学ぶ。卒業後はパリに移り、オートクチュールの仕事に携わる。2005年笠盛入社。2010年、笠盛でテキスタイル・ジュエリーブランド「000」を立ち上げ、全商品のデザインを手掛ける。
座繰り染織家
中野紘子さん
群馬県生まれ。大学卒業後、碓氷製糸農業協同組合に入社し製糸技術、座繰り糸づくりを学ぶ。2003年に座繰り染織工房を開設。全国の染織家に座繰り糸を提供するかたわら、染織の技術を習得。2009年糸づくりから全てを手がけるオリジナルブランド「canoan」(カノアン)を立ち上げる。
【企画制作】
群馬県工業振興課「群馬県産シルク製品PR事業」
【撮影協力】
大風呂敷(桐生市)