ベニバナインゲン(紅花隠元)は、花豆などと呼ばれ、英国ではスカーレット・ルナービーン、中国では多花菜豆などという。中南米のメキシコ原産で、中央アメリカ、南アメリカ、アフリカなどの高地で栽培されている。国内では煮豆や甘納豆、アズキのように餡(あん)として食され、日本人が不足しやすい栄養素の一つ、鉄分も豊富に含んでいる。

東洋大食環境科学部 健康栄養学科教授  高橋 東生さん

由来

 ベニバナインゲンは、江戸末期に観賞用として日本に伝わり、後にマメが食用となりました。名前の通り、夏に赤色のマメ科独特の蝶形花(ちょうけいか)を付けます。つる性の多年生植物ですが、日本では1年草として栽培されています。長さ約10センチのさやをつけ、種子は大型で幅1.5センチ、長さ2.5センチほどの腎臓のような形です。寒冷地が栽培に適しているため、北海道や東北地方、長野県で栽培され、本県では中之条町など吾妻地域が盛んです。

栄養成分

 豆類は、鉄分を多く含む食品です。鉄は赤血球のヘモグロビンの構成成分で、体内各器官への酸素の運搬・供給にかかわり、血液中の酸素を筋肉に取り入れる役割も果たしています。鉄が不足すると、関節リウマチの合併症で多い貧血のほか、めまい、息切れ、神経過敏、集中力・思考力の低下、肩や首のこり、冷え性などの原因にもなります。月経や妊娠・授乳中では、さらに必要量は増えます。

 通常の調理法(水に十分浸し、柔らかくなるまで十分煮る)を行えば、栄養が取れておいしく食べられます。一方、完熟した乾燥豆は、加熱調理せずに食べると嘔吐(おうと)、下痢などの消化器症状を起こすことがあります。

 植物の中でインゲン豆の仲間は、食中毒の原因物質となるたんぱく質のレクチンを多く含みます。炒(い)ってもマメの中心まで熱が行き届かずに、レクチンが変性せずに残って中毒症状を起こす可能性があります。マメを食べるときは、きちんと熱を通すことが重要です。正しく調理し、日常的に豆類を食べるように心掛けましょう。

コラム/野菜類でも豆類でもある
 インゲンやエンドウなどは、若い種子の時期と完熟してからでは、分類が変わります。若い種子をさやごと食べるサヤインゲンやサヤエンドウは「野菜類」に分類。しかし、完熟した種子を乾燥させると“豆”と呼び、「野菜類」とは別の分類になります。インゲンやエンドウは「野菜類」でもあり、「豆類」でもあるのです。
レシピ/カキ菜のスパゲティ
群馬大医学部附属病院 栄養管理部副部長 斉賀 桐子さん
 ピンチョスは、前菜やおつまみとして、串に刺して提供する料理です。花豆(ベニバナインゲン)に含まれるモリブデンは、糖質や脂質の代謝を助ける働きがあります。花豆の甘煮と塩気のあるチーズやバターとの組み合わせは、新たなおいしさを感じます。お好みの食材で楽しんでください。

◆材料(5個分)
花豆(甘煮)40g、食パン(サンドイッチ用)35g、チェダーチーズ20g、オリーブ塩漬け20g
◆作り方
①(自分で煮る場合)花豆を軽く洗い、一晩吸水させる。たっぷり水が入った鍋の中に花豆を入れ、中火であくを除く。水が濁ったらゆでこぼして水を入れ替える。花豆に十分火が通り、柔らかくなったら砂糖(花豆100gに対して砂糖50g)を2回に分けて加えて煮含める。
②花豆の甘煮に、オリーブやクッキーの型で抜いた食パンとチーズを串に刺して出来上がり。

エネルギー228kcal/たんぱく質10.6g/脂質11.2g/炭水化物34.1g


 9月から11月に収穫する「ベニバナインゲン」。花豆の愛称で知られ、甘味のある煮豆は、正月のおせち料理に欠かせない食材の一つとなっている。食物繊維や鉄分も豊富で、関節リウマチの合併症として多い貧血にも効果が期待される。代々栽培する中之条町の「山口農園」では、出荷に向け、さやからマメを取り出す作業が進められている。

代々受け継ぐ 伝統野菜

 大粒で紫に黒いまだら模様のベニバナインゲン。約100年前の大正時代、中之条町入山地区の住民が北海道から種を取り寄せ、標高1100メートルの高冷地の同地区で育て始めた。鮮やかな赤色の花が咲き、当初は観賞用だった。同地区の山口農園代表の山口英義さん(53)は、曽祖父が始めた栽培を受け継いでいる。

絶やしたくない

畑を前にベニバナインゲンを手にする山口さん(後ろ中央)と家族

 戦後、草津町の和菓子店から「ベニバナインゲンを使った甘納豆を販売したい」との依頼があり、吾妻地域を中心に栽培が広まった。しかし、高齢化などで、農家は減少の一途。山口さん宅も例外ではなかった。山口さんは都内で働いていたが、「代々受け継ぐ伝統野菜を絶やしたくない」との思いから27歳で就農を決意した。現在、栽培面積1.1ヘクタール、約1.2トン収穫する。妻の裕子さん(43)、父の一元さん(83)、母の寿美子さん(82)、叔父の妻のさと子さん(80)らと作業に汗を流し、全国に発送する。山口さんは「皮が薄くて柔らかく、中はほくほく」と自信を持つ。

ロボットで作業軽減

 5月中旬に、土を覆う農業用マルチシートを張り、等間隔に種をまく。肥料は兄の昇芳さん(56)が営む牧場の牛糞を使用。味にも大きな影響があるという。つるを巻きつかせるため、二人一組で高さ3メートル近いアーチ状の支柱を千本以上つくり専用ネットを張る。連作できないため、毎年繰り返す大変な作業だ。「台風などでほぼ毎年支柱が倒され、その都度直す」と苦労は絶えない。

 夏の花盛りの時期が過ぎると次々にさやが付く。枯れたさやを収穫して3、4日天日で干し、さやから取り出したマメを遮光して3、4日干す。唐箕(とうみ)でごみをふるい落とした後に選別する。全てが手作業だ。さやが枯れる前に寒くなると、水分のあるマメが凍ってしまうため、根元を切って強制的に枯らす。時期の見極めが収穫量を左右する。

 今年同園は、農林水産省の「スマート農業」実証プロジェクトの採択を受け、台車ロボットを使い、農薬散布や爆音での鳥獣害対策を進めている。「作業軽減で、農業の担い手が増えれば」と期待する。今年の夏、初めて長男の剛史さん(17)が農作業を手伝った。「『楽しい』と言ってくれた。ゆくゆくは一緒にできたら」と将来を思い描き、来年育てる種を今年も大切に保管する。

メ モ 
 県の調べによると、2019年度産の県内のベニバナインゲンの栽培面積は28ヘクタール、収穫量は約33トン(参考値)。長野原町、嬬恋村、中之条町の吾妻地域で、県内の収穫量の約8割を占める。中之条町入山地区の伝統野菜には、入山きゅうりや幅広いんげんもある。