農業の担い手にどのようなイメージを持っていますか。日本では主な担い手として、世帯単位で自営農業に従事する「農家」と、法人化して会社組織の形態で農業経営を行う「農業法人」が挙げられます。
かつて担い手の主役だった農家は、高齢化や後継者不足により継続的に減少しています。一方、近年増加しているのが農業法人です。農業構造の実態と動向の把握を目的とした統計調査「農林業センサス」によると、法人化している農業経営体数は全国で3万707(2020年時点)。05年の1万9136から、約1.6倍に増えています。
今回は、日本農業法人協会による農業法人実態調査の結果を基に、担い手の一角を担う農業法人とSDGs(持続可能な開発目標)について考えます。
調査は同協会会員が対象で、農業法人白書に結果が公表されています。20年版を見ると、農林業センサスによる全国平均の経営規模に比べ、稲作が36.2倍の65.2ヘクタール、露地野菜が34.3倍の35.0ヘクタール、肉用牛が22.9倍の1331頭、酪農が12.4倍の723頭―などで、大規模経営体が多いことが分かります。経営者の平均年齢は58.5歳で、センサスの全国平均(67.88歳)に比べ若いです。従って、農業の担い手の中でも“元気”な経営体が多いと言えます。
SDGsへの取り組み状況では、39.0%が「取り組んだり、計画したりしている」という結果でした。一方で、「SDGsを知らない」のは34.5%で、農業部門での認識が十分深まっていないことがうかがえます。
農林水産省は21年5月に「みどりの食料システム戦略」を策定し、持続可能な食料システムの構築に向けた取り組みを推進していますが、元気な担い手でも「SDGsへの取り組みはこれから」というところが多いようです。
もう少し詳しく結果を見ると、経営者の年齢が若くなるほど、売上高が高くなるほど、従業員の女性比率が高くなるほど、SDGsに積極的に取り組んでいることが分かりました。逆に言うと、年齢の高い経営者や売上高の少ない中小規模の経営体がSDGsへの知見を深めていければ、持続可能な食料システムの構築につながっていくのではないでしょうか。結果を柔軟に解釈すれば、意識の高い女性が多い経営体が先導する形で、農業部門でのSDGsへの取り組みが浸透していくことを期待しています。
今回は、一つの切り口として農業法人のSDGsへの取り組み状況を紹介しました。これにより少しでも農業に興味を持ってもらえるとうれしいです。私たちは消費者の立場で食料システムの一員でもあることを思い起こし、日本の食卓を支える農業の持続可能性について一緒に考えましょう。
【略歴】農業経済学、食料経済学が専門。食生活の変化や食料自給率などを研究。信州大助教を経て2019年から現職。兵庫県出身。神戸大大学院博士課程修了。
2022/4/20掲載