▼「台湾精選
▼紅茶は、沼田市利根町の薗原湖畔で開かれた地元出身の農業技師、新井耕吉郎(1904~46年)の胸像移転・除幕式で配られた。新井は日本統治下の台湾で紅茶栽培の礎を築いた。だが台湾の実業家・許文龍氏から胸像が寄贈され、2009年に故郷に設置されるまでは無名だった
▼旧制沼田中(現沼田高)から北海道帝国大に進み、卒業後、台湾に渡った。そこで古里に似た日月潭湖周辺が紅茶栽培に適すると確信した。紅茶試験支所の設立に関わり、品種改良を進めた。缶に記された「台茶18号」は、生涯をかけて改良した品種名だ
▼老神温泉観光協会や地域住民らが顕彰会設立に向けた準備を進めている。業績を後世に伝え、台湾との交流や台湾紅茶を生かした地域活性化につなげていく
▼許氏は台湾の産業基盤を整備した日本人を顕彰し、胸像を製作している。新渡戸稲造(製糖)や八田与一(ダム建設)、浜野弥四郎(上下水道整備)らとともに台湾紅茶の産業振興とブランド化に貢献した新井が選ばれた
▼群馬地域学研究所の手島仁さんは「新井のような名もなき日本人が台湾の近代化を支えた」と話す。薗原湖畔はちょうど新緑がまぶしい時季。紅茶を飲みながら、偉大な先人に思いをはせたい。