▼首相就任後初めての所信表明演説には政治家の信念や国家観が強くにじむ。中曽根康弘首相は「この風雪を突破して、日本に新たな黎明(れいめい)をもたらすよう全力を尽くす」と力を込め、終戦直後のがれきと闇市の光景を回想した

 ▼「経済を回復軌道に乗せるよう、内閣の命運をかけて全力を尽くす」と述べたのは、金融危機のさなかに登板した小渕恵三首相。「鬼手仏心を信条として、国民の英知を結集して次の時代を築く」と決意を示した

 ▼岸田文雄首相が訴えたのは政治への信頼回復だった。「国民」という言葉を随所にちりばめ、「国民の声を真摯(しんし)に受け止め、かたちにする、信頼と共感を得られる政治が必要」と呼び掛けた

 ▼だが早くもトーンダウン気味である。安倍政権から続く不祥事や公文書改ざん問題で十分な説明はなく、再調査も否定した。金持ち優遇と批判があった金融所得への課税強化は先送りした

 ▼共同通信社の世論調査で「安倍、菅政権の路線を転換すべきだ」との回答は69.7%、「森友学園問題を再調査するべきだ」は62.8%に上った。国民の声に耳を傾けなければ、期待は失望に変わる

 ▼衆院が解散され、19日公示、31日投開票の選挙戦が事実上スタートした。岸田首相は内閣発足直後の高い支持率を最大限利用する戦略だが、ハネムーン期間とはいえ国民の視線は厳しい。党内への配慮が過ぎれば、熱はあっという間に冷める。