アーアーと大きな鳴き声を繰り返すひなに、せっせと餌を運ぶ親ガラス。口移しで餌を与える姿に愛情の深さを感じ、心を打たれる人も少なくないだろう。この時季、よく目にする光景だ。

 地域により多少ずれるが、カラスは2~3月に営巣し、3~4月に卵を産む。1カ月程度で巣立ったひなは、その後も親と一緒に過ごす。その間に食べ物の取り方や飛び方などを親から学ぶのだ。そして、7月頃になると親元を離れる。

 4~6月に不幸な事件が発生する。ヒトの善意が起こすカラスのひな“誘拐”事件だ。心優しいヒトが、道にいるひなを巣から落ちてしまったと考え、持ち帰って保護してしまうという事件である。

 実際は、巣から落ちたのではなく、巣立ち後のひなが飛ぶ練習をしている時の一幕の場合もある。飛び方が下手でコントロールができない上に、警戒心も薄いため、歩道など目立つ所で立ち止まる。のんきに親ガラスにアーアーと餌をねだることもあれば、疲れてしばらくジーッと休んでいることもある。親ガラスは、ひなをいつまでも甘やかすことはできない、と心を鬼にして、少し離れた所で見守っているのだ。

 そんなシチュエーションに遭遇した心優しいヒトが、近くに親ガラスもいなそうだし、このままでは猫などに襲われてしまうかもしれない、放っておけない、とその場からひなを持ち帰ってしまうのである。

 これを親ガラスの視点で見てみよう。頑張るわが子の姿をひやひやしながらも遠くから応援していると、ヒトが近づき連れ去ってしまう。突然の事態にぼうぜんとするだろう。親ガラスからすると紛れもなく誘拐だ。

 この時、親ガラスがヒトに威嚇してちゃんとアピールできれば、ヒトも近くに親がいると理解し、ひなを放置するかもしれない。しかし、そもそもカラスにとってヒトは自分よりはるかに体が大きく怖い存在だ。連れ去られるわが子を前になすすべもなく、立ちすくんで羽も足も出ない親ガラスもいるだろう。

 ちなみに、このひなを持ち帰る行為は「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律」に違反する。許可なく捕まえることは違法なのだ。ひなを思う気持ちはよく分かる。このまま放っておいたら死んでしまう、見過ごせないと心配する方もいるだろう。「違法だから駄目」では納得できないかもしれない。

 私は、野生動物にできる限りヒトが介入しない方が良いという考えだが、もちろん異なる意見もあるはずだ。いろいろな意見があって良いが、少なくとも、優しい勘違いによって、その思いとは裏腹にひなの誘拐事件が引き起こされている現実があることを知ってほしい。そして、ひなを思うのなら、その生態を理解することから始めてほしい。

 【略歴】鳴き声でカラスの行動を制御する製品などを提供するCrowLabを設立。ふん害や食害といった対策を全国で手掛ける。宇都宮大特任助教。桐生市出身。

20222/5/5掲載