前回、前々回とビールの味や香りの決め手となる糖化と酵母について述べました。今回は主原料のホップを取り上げます。

 ホップはアサ科のつる性多年草で、日本ではセイヨウカラハナソウとも呼ばれています。雌株の毬花(きゅうか)と呼ばれる部分がビール造りに使われます。

 ホップはビールの苦み、香り、泡にとって極めて重要です。さらに雑菌の繁殖を抑えてビールの保存性を高める働きがあります。

 米国やドイツ、エチオピア、中国、チェコ、ポーランド、英国で栽培され、総数は100種類以上といわれます。日本では東北地方が多く、岩手県遠野市が有名です。代表的なものに、やさしい香りと上品な味わいが特徴のファインアロマホップのチェコ産のザーツや、より強い香りが特徴の米国産のカスケード、特に力強い苦みが特徴のドイツ産マグナムがあります。

 技術の進歩によって、最近はより個性的な香りを持つ品種も生まれています。使われるホップでもビールの味わいは大きく変わるのです。

 近年、ホップの効能が大変注目されています。順天堂大医学部の准教授らとキリンホールディングスの研究員らによる共同研究グループが、ヒトを対象にした臨床試験で、ビールに含まれる苦み成分である熟成ホップ由来苦味酸が認知機能やストレス状態を改善することを確認しました。

 これまで、ホップ苦味酸がアルツハイマー病への予防効果を示すことは非臨床試験によって報告されていましたが、ヒトへの効果は十分には検証されていませんでした。認知機能の改善効果が確認できたことで、食生活を通じた新しい予防法の開発につながることが期待されています。

 熟成させたホップには、体脂肪を低減させる効果が期待できる、という研究報告もあります。

 ホップはこのように、私たちの体に良い効果をもたらすさまざまな可能性を秘めています。ビールを飲めば飲むほど健康効果を得られるわけではないでしょうが、効能があると知れば気分も変わってきませんか? ぜひ、おいしく健康的にビールを楽しんでほしいと思います。

 日本では2018年4月の酒税法改正で副原料の選択肢が広がりました。主原料の他にコメやコーン、フルーツ、スパイスが使われ、さまざまな味わいのビールが登場しました。

 現代の若者は子どもの頃から甘い飲み物に慣れ親しんでいるためか、お酒を飲む時も、苦いビールよりチューハイやリキュールなど甘いテイストを好む傾向にあるようです。そんな方にお勧めしたいのがクラフトビールです。ジュースのように極度に甘くなく、とはいえ苦みは少なめ。飲みやすいクラフトビールをぜひ味わってください。

 【略歴】生まれつきの難聴を抱える。薬剤師。介護事業のアライ社長。障害福祉施設を運営する一般社団法人篤厚会代表理事。東北薬科大(現東北医科薬科大)卒。

2022/05/10掲載