▼NPO法人日本福祉教育研究所理事長の妹尾信孝さん(71)=太田市=は、難産の後遺症で生まれつき手足と言語に障害がある。歩くのはやや不安定ながらゆっくりと全国を巡り、福祉や人権をテーマにした講演会を550回以上行ってきた

▼妻の伊津枝さんは常に付き添い、夫を支えた。「不格好でもいいじゃない。一生懸命話せば必ず伝わる」と励ました

▼ある行政機関の福祉担当者との打ち合わせの席だった。職員は言葉が聞き取りにくい妹尾さんを避け、伊津枝さんに対応を求めた。「福祉の仕事に携わる方がなぜ主人の話を聞こうとしないのか」。痛烈な一言に相手は下を向くしかなかった

▼多いときは1日3回の講演を引き受け、障害者への理解を広げようと精力的に訴えた。3人の子ども、6人の孫に恵まれたが、伊津枝さんは2016年9月、脳梗塞のため60歳で急逝した

▼妹尾さんはひどく落胆し、活動を断念しかけた。だが「修行と思って講演を続けなさい」という妻の声が聞こえた気がした。七回忌に合わせ、秋には縁のある人を招いて「しのぶ集い」を開く予定だ

▼学校で福祉教育が推進され、東京パラリンピックが注目されるなど、障害者に対する理解は以前より進んだ面もある。だが、就労や社会参加の機会はまだ十分ではない。誰もが暮らしやすく、差別や偏見のない社会の実現へ、妹尾さんは講演を続けていくつもりだ。