先日、高崎市の観音山丘陵にサクラを見に行った知人から「尻尾がしましまのタヌキが側溝から出てきた」と連絡がありました。

 この動物の正体はアライグマです。このように、われわれの身近な場所でもアライグマを見かけたり、話を聞いたりする機会が増えてきました。「まさか群馬で」と思われるかもしれませんが、県内では毎年多くの目撃情報があり、野生のアライグマが生息しているのです。

 県内で最初に野生アライグマが確認されたのは1994年でした。人気を集めたテレビアニメ「あらいぐまラスカル」(77年から放送)の影響で、ペットとして米国やカナダから数多く輸入され、その後、飼育放棄されたり逃げ出したりして野生化したと言われています。実際に飼っていた知人によると、とても気性が荒く、10年飼育しても素手では餌をやることができないほど危険で、ほとんど人に慣れなかったそうです。

 アライグマは生態系に大きな影響があるとして2005年に特定外来生物に指定され、現在は飼育や販売が法律で規制されています。日本にもともと生息しているタヌキなどの中型動物と比べると体が一回り大きく大食漢で、さまざまな物を餌にします。時には哺乳類の子どもを襲って食べることもあり、タヌキの研究者から子ダヌキが襲われて食べられた事例を聞きました。

 木登りが得意で鳥の巣を襲います。水を恐れず希少なサンショウウオやカエルを捕まえて食べ、器用な手を使いウミガメの卵を掘って食べるという報告もあります。

 私が日々関わる鳥獣被害では、アライグマによる被害はクマやシカによる被害とは異なる点があります。農作物を食い荒らすだけでなく、家屋に侵入することがあるためです。容易に出入りできる倉庫や古い家などにすみ着いて繁殖し、屋根裏や床下に入って糞尿(ふんにょう)をため込むことがあります。足音や天井の染みといった生活被害は深刻です。

 近年話題になっているダニ・ノミから感染する重症熱性血小板減少症候群(SFTS)だけでなく、アライグマ回虫症やレプトスピラ症など、直接人にうつる病気を保有している可能性があります。糞尿から人に感染することもあり、特に注意が必要です。

 かわいいと思って飼い始めた動物が、故意ではなくても逃げ出して野生に定着し、本来の生態系を乱したり、農業被害を発生させたり、人の感染症を媒介したりと思わぬ影響があることに気付いてください。

 身近な環境に生息するアメリカザリガニやアカミミガメも今年3月、新たに外来生物法の対象になることが決まりました。外来生物を通してペットや野生動物の命と向き合うときには、その背景にも目を向けてもらいたいと願います。

 【略歴】大学で野生動物の調査や管理を学び、卒業後フリーで各地の調査などに取り組んだ。2008年に個人事務所設立、13年に株式会社化し現職。宇都宮大農学部卒。

2022/5/15掲載