間もなく梅雨のシーズンになります。梅雨は木にとって、水分と栄養を蓄えて成長する時季です。一方、木材加工をする者にとっては、大事な木を雨やカビから守らなければならない季節です。

 一般的な木は切り倒した後、製材や粗削りをしてから、雨や太陽光による日焼けを防ぐため風通しの良い日陰で数年間保管します。乾燥して反りや狂いがなくなってから初めて、材料になります。

 そのため雨や湿気には気を付けなければなりません。種類によって密度や性質が異なり、カビや染みが深くまで浸透しやすい木材もあります。トチノキなどは雨に直接ぬれなくても、湿度の高い場所に置いておくだけでカビが生えてしまう場合があります。

 一方、キリはさまざまな種類の中でも珍しく雨にさらした方が良い木材です。製材後に天日干しにし、雨風にさらします。梅雨の時季は、木の内部に雨が入って飽和状態になることで「あく」や「しぶ」が表面に出やすくなり、黒っぽく変化します。何度もぬれと乾きを繰り返すことによって、乾燥も早く進みます。時々、表裏をひっくり返して表面全体が黒くなるまで乾燥させます。製品にする場合はその黒い表面をかんなでひと削りすると、キリの白くてきれいな木目が現れます。

 木を削る機械や道具は金属製が多いため、それらも雨の時季は湿気によるさびに気を付けなければなりません。普段よく使う道具はさびる心配はありませんが、あまり使っていない物などはさびやすいので、油を塗ったり紙に包んだりすることが必要です。服の手入れと同じように定期的に行うことで長く使うことができます。

 かんなやのみ、のこぎりなどは手入れが切れ味につながります。切れない刃物で作業することは仕上がりが良くないだけでなく、効率も悪いため、刃物は砥石(といし)で研ぎ、常によく切れる状態にしておきます。機械でも替え刃と研ぎ刃がある場合、私は必ず研ぎ刃を選びます。道具の管理も大切な仕事なのです。

 のみやかんなは何十年も使えます。良いかんなは数万円するものもありますが、それだけ長く使えれば、さほど高い買い物ではないと思います。シャッといい音を出してきれいに削れるのは、とても気持ちが良いものです。

 かんなは電気工具に比べて大きな音もせず、削りの微調整ができます。安全で削りかすが大きいので掃除もしやすいです。扱いが難しいとかプロの道具だろうと思うかもしれませんが、実は家庭にあるととても便利です。平がんなを一つ持っておくと、木のテーブルやまな板の汚れ取り、引き出しのガタつきの調整のほか、箸も自分で作れます。木を削る時にほのかに甘い匂いや香ばしい匂いを感じることもかんなならではです。

 かんな1丁から木を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 【略歴】2018年に沼田市の地域おこし協力隊員になり、3年間、沼田桐下駄の技術を学ぶ。任期後も製作を継続。埼玉県出身。拓殖大大学院修士課程修了。

2022/5/17掲載