
子どものいない女性を応援する「マダネ プロジェクト」を主宰するくどうみやこさん(神奈川県在住)は30代で結婚した。「いずれは子どもを」と思ってはいたものの、仕事を優先し、深くは考えていなかった。40歳を過ぎたときに子宮の病気が分かり、医師から出産が難しいことを告げられた。
「『産まない』と『産めない』との違いを実感し、初めてショックを受けた。でも、産めないのであるならば、子どものいない人生と向き合おうと思った」
周りに子どものいない人はいた。だが、話題にしにくいことで、直接聞くことはできなかった。書物や文献も出てこなかった。
「子どもがいない人の会を開催するので集まりませんか」―。
情報がないならまずは共有したいと、インターネットで呼びかけた。15人ほど集まった。多くの人が悩みやつらさを誰にも相談できず、抱え込んでいた。その内容はくどうさんの想像をはるかに超えていた。
「この状況が可視化されていない。思いをシェアする場と、社会に発信し、理解してもらうことが必要」と感じ、「マダネ―」を立ち上げた。
定期的に交流会を開きながら、より広く、同じ思いを抱えている人に発信したいと、著書を出版、メディアを介してPRした。プロジェクトの認知度は徐々に広がった。コロナ禍以降、交流会は対面からオンラインに変わり、国内外から参加者が集まるようになった。登録者は千人を超えた。
結婚していない人、子どもが欲しかったのにできなかった人、自ら産まない選択をした人、流産の経験がある人…。
共通点は「子どもがいない」ことだが、そこまでの過程はそれぞれだ。自身と違う人の話に耳を傾けることによって、視野が広がり、人生観が少しずつ変わっていく。最初はつらくて自身の思いを話せなかったのが、回を重ねるうちに、笑顔が増え、他の参加者をフォローできるようになる人もいる。そんな変化が運営の励みになっている。
「マダネ―」としては今後、子どもがいない女性のプラットホーム(基盤)づくりをより強化する一方で、大学や自治体などとの連携も模索する。
今、肩身の狭い思いをしているのは「結婚して子どもを産むのが当たり前」という価値観の中で育った40、50代。「若い学生には多様な生き方があるということを伝えたい」
地域とつながりたいという思いを抱えている人も多い。「子どもがいない人や独身の人を対象にした講演会や研修を通して、地域のネットワークを構築できる機会をつくりたい」
誰も取りこぼさない社会であってほしい。くどうさんの思いだ。
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