▼「心はどういう形をしているの?」。NHKラジオの「夏休み子ども科学電話相談」には純真無垢むくな質問が寄せられる。回答に窮するものもあり、大人が聞いても楽しい 

 ▼1984年の番組スタートから30年以上にわたり回答者を務めたのが、ぐんま昆虫の森名誉館長の矢島稔さんだ。「世界中に昆虫は何種類いるの?」。研究の及ばない地域があって実はよく分からない。「君が学者になって数えてほしい」と呼びかける

 ▼東京に生まれ、子どもの頃は戦争で勤労奉仕に駆り出された。空襲が相次ぎ、人命がいともたやすく失われる光景を目の当たりにした。だが惨状とは関係なく、トンボは焼け跡にできた水たまりで産卵している。その光景がまぶたに焼きついた

 ▼大学で昆虫学を専攻。57年に豊島園昆虫館を、61年に都立多摩動物公園に昆虫園を開設した。上野動物園水族館長、多摩動物公園長を歴任し、定年退職後に本県に招かれた。昆虫は実際に捕らえ、手で触り、飼ってみなければ分からない。積年の思いを結実したのが広大な里山を有するぐんま昆虫の森だった

 ▼矢島さんの訃報が届いた。最後に来園したのは2019年11月。「みんなの顔が見たい」と酸素吸入器を傍らに職員を激励したという

 ▼「指先にトンボがとまるんだよ。さあ虫に会いに来てごらん、きっと君もおもしろいと思うに違いないから」。子どもたちに残したメッセージである。