発達障害の家族に対する悩みや葛藤を打ち明ける平野さん

 「ママ…」。7年ほど前の秋の夜、寝ている長男(当時小学1年)が一瞬ほほ笑んだ気がした。同時に、はっとわれに返った。東毛地域の平野湊さん(38)=仮名=は無意識に長男の首を絞めようとしていた。嫌な汗が額に浮かび、ひどい自己嫌悪に陥った。

共倒れ

 この数カ月前、長男は医療機関で自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症と診断された。対人関係や集団行動が苦手で、学校で問題を抱えていた。授業中に座席を離れることが多く、担任の指示に従わない。家で注意しても全く響かず、「宇宙人と話している感覚」だった。

 職場で出会った元夫も、発達障害の傾向が強く、他者の気持ちが理解できなかった。初産の陣痛で苦しむ中、「お前が話し相手をしてくれないからつまらない」と言われた。外出中の子守を頼んでも、泣き続ける長男を見ているだけ。「だって、『見ていて』って言ったでしょ」という理由に返す言葉がなかった。

 独りで悩み、一時は長男との心中を考えるほど思い詰めた。いらいらが募り、長男に物を投げるなど暴力を振るってしまったこともある。「こういうのが積み重なって虐待や殺人事件を起こすのかも」。当時を振り返ると今でも恐ろしい。

 動悸(どうき)が激しくなるなど心身に不調も出始めた。「このままでは家族共倒れになるよ」。長男の担当医のひと言で離婚を決めた。

 現在、平野さんは元気に育児と仕事を両立している。長男について語る際、愛情深い表情を何度も見せた。ただ、発達障害を「多様性」と捉える風潮には抵抗があるという。「家族が当事者の場合、完全に受け入れるのは難しい」と苦笑い。「発達障害者とそうでない人が可能な範囲で理解し合い、折り合える着地点が見つかればそれでいい」

無理解

 「おばあちゃん(義母)が障害を受け入れてくれない…」。県内の40代女性は声を振り絞るように、苦しい胸の内を語り出した。

 女性の小学校高学年の長男が発達障害だ。強いこだわりがあるほか、文字をうまく書けず学習面で困難を抱えていた。小学校入学後から情緒障害の特別支援学級に通っている。

 長男が発達障害と診断された際、女性は悲しみや困惑などが入り交じった複雑な心境になったという。しばらく受け入れられなかったが、今では「これもこの子の個性。社会に息子のことをもっと知ってほしい」と強く思っている。

 だが、義母は違った。発達障害について説明しても理解しようとせず、「頑張らないから勉強ができないんだ」などと女性や長男を叱った。放課後等デイサービスで受ける療育も、ただの積み木遊びなどと見なし、「勉強をしない所に行く必要はない」「ちゃんと教育をしなさい」と責めたてた。

 長男は精神を安定させる内服薬を処方されていたが、義母は薬を飲むことに反対した。薬の服用を止めると、長男がパニックを起こす回数が増え、家族をたたいたり、テーブルをひっくり返すなど荒れた。

 長男は母と義母の対立に苦しめられている。義母に叱られる自分を責め、自傷行為を繰り返す二次障害を発症した。女性は「今、それが一番つらい」と声を詰まらせる。

 女性の味方は少ない。夫は仕事で忙しく、義祖父も助けてくれない。独りで悩み続け、ストレスで頭の中が爆発しそうになったこともあった。「自分から生まれなければ、息子は幸せだったのかもしれない」。自分を責め、自暴自棄になって酒に酔いつぶれたり、精神科の受診を考えたりしたこともあった。

 最近、義母が発達障害に関する新聞記事を切り抜いているのを知った。「家族のみんなが長男の幸せを願っている。おばあちゃんも本当は苦しいし、心配なんだと思う」

心身不調

 近年、発達障害の配偶者らと関わり心身不調となった状態を示す「カサンドラ症候群」という言葉が社会に浸透し始めるなど、当事者と家族を巡る課題が浮き彫りになってきた。子どもの発達障害や療育への理解に家族内で温度差があり、祖父母や一方の保護者の協力を得られず、もう一方の保護者が孤立する事例も多い。

 発達障害に詳しい本島総合病院(太田市)の小児科医、本島敏乃さんは「異なる家庭の事情などを踏まえた当事者家族の支援の拡充が必要」と強調。「ピアサポートをはじめ、当事者や家族が主体の活動を行政が後押しすることで、本当に必要な支援の実現に近づくのではないか」と訴える。

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 文部科学省の調査によると、小中学生の15人に1人が発達障害の可能性があるとされ、発達障害者への支援体制の整備が進む。一方、当事者の家族や保育、教育現場などの関係者は、満足なサポートを受けられず苦しんだり、理想の支援と現実のギャップに悩んだりすることも多い。そんな支える側の今を追い、課題を探った。