無差別爆撃と一般市民の大量殺りく、ロシアのウクライナ侵略の残虐さに戦慄(せんりつ)を覚える。日本政府は「国際秩序の根幹を揺るがす暴挙である」としてロシアを弾劾し、先例のない厳しい経済制裁を科している。岸田文雄首相も欧米の首脳も、欧州で力による一方的な現状変更の試みを許すとアジアでも同じことが起きかねないとして、アジア諸国も結束してロシアに対峙(たいじ)すべきであると説いている。

 だが、反応は欧米や日本とは異なる。ロシアを公然と批判する国は少数派で、対ロ経済制裁に踏み切ったのは日本とオーストラリア、韓国、ニュージーランド、シンガポールの5カ国に過ぎない。

 これはなぜなのか。ウクライナ戦争の成り行きにかかわらず、今後の国際関係の行方を決める主舞台がアジアであるという国際政治の構図はおそらく変わらない。世界の将来を左右するアジア諸国の姿勢の背景を理解することが日本外交には必要だ。

 アジア諸国にとって、ウクライナの事態は「欧州という遠い世界の出来事」ではない。アジア諸国は10年以上前からウクライナと同様に、軍事力を背景にした一方的な現状変更の試みに直面してきた。東シナ海(尖閣諸島)、台湾海峡、南シナ海、中印国境などで中国による威圧行動が続く。アジアでは紛争が常態化している。

 程度の差こそあれ、アジア諸国はウクライナと同様の脅威にさらされている。ただ、ロシアを公然と批判するのはためらう。ロシアの行動は許容できないが、ウクライナ戦争は米ロの対立が主旋律であり、これに中国が絡む。欧州の戦争と米中が対立するアジアの国際関係は連動している。この両者の結び付きがアジア諸国を慎重にさせる。

 アジアは既に米中対立の主戦場になっており、ロシア批判の結果、米中の争いに巻き込まれるのをアジア諸国は避けたい。また、中国は大事な経済交流の相手である。新型コロナやウクライナ危機による経済混乱に対処する上で、関係の維持は不可欠だ。

 欧米への同調をためらうアジア諸国の背景には、かつてアジアを植民地支配した欧米への屈折した思いもある。ウクライナ戦争は欧米を中心にした「西側」の結束を復活させた。力を取り戻した西側が主導する対ロ経済制裁は、ロシアのみならず、アジア諸国にも一方的な犠牲を強いているのではないか。そんな不信感もある。

 アジアの国際関係は大国だけでは決まらない。その他のアジア諸国の役割も重要だ。彼らのためらいを、国際危機への無関心や中国・ロシアへの過剰な配慮であると誤解してはいけない。アジア諸国は事態の深刻さを十分認識している。日本には、彼らを取り巻く困難を理解し、共に乗り越えるため細やかな対話や経済協力、人材育成などの支援が求められる。

 【略歴】日本国際問題研究所上席客員研究員を兼務。ブリティッシュコロンビア大客員教授などを歴任。伊勢崎市出身。前橋高卒。一橋大大学院で博士号取得。

2022/5/25掲載