発達障害の診断で使うおもちゃを並べ、検査の流れや所要時間を説明する小児科医

 県の調査によると、小児科や精神科、心療内科などを掲げる医療機関で、発達障害の診断・診療に携わっていることを公表可能とする病院やクリニックは2019年3月末点で54施設。県は「十分な数ではない」との認識だ。発達障害者の支援ニーズが高まっているにもかかわらず、医療機関の新規参入が進まないのはなぜか―。

 「原因の一つは診療報酬だと思う。特に、子どもの発達障害の診療は手間と時間がかかる。力を入れるほど経営が圧迫されかねない」。県内のある小児科医は本音を漏らす。

 診療報酬は医療行為の公定価格のこと。発達障害の診療は「精神科」と「小児科」で仕組みが異なる。精神科は、診療点数(価格)が5分以上、30分以上など診察時間などによって区切られ、時間が長くなるに連れ点数も上がる。一方、小児科の診療点数は時間で区切られず、精神科と比べて設定が低い例が多い。1人の患者の診療が2年以上続いた場合、精神科は一定額以上の報酬を請求できるのに対し、小児科は6歳以上の患者だと初診時の2~3割程度まで報酬が下がる。

 診療時間もネックだ。かぜの症状の診察なら5分程度だが、発達障害の疑いのある患者は成育歴の確認や行動観察が必要。診療に1時間以上かかることも多く、時間当たりの診療点数は低くなる傾向にある。

 需要に応じて1日に診る人数を増やすと、1人当たりの診療時間が減り、提供する医療の質が下がる懸念も。初診の受け入れ態勢を維持しつつ再診も対応すると、雪だるま式に患者が増え、時間的な余裕が減ったり、急患への対応に影響が出ることも考えられる。診療の一部を担う心理士を増やせば医師の負担は減るが、高い人件費を伴う。医療現場からは、こうした状況が診断・診療に携わる医師、医療機関の不足につながっているのではないかという声が上がっている。

 医師、医療機関の不足は「初診待ち期間」の長期化を招く。予約から初診まで半年近く待たされる例も珍しくないという。待機期間が長引くほど、支援が遅れる恐れがある。前出の医師は、診療報酬制度の見直しが必要だとした上でこう話す。「発達障害の特性に気付き、専門医や療育機関へ紹介できるかかりつけ医が増えれば、状況は改善されるかもしれない。専門医の育成、医師の関心を高める研修の充実が必要だと言う人もいる。いずれにしろ十分な議論が必要だ」

日本語の壁 医師が意思疎通できず

 県内に住むあるマイノリティー国籍の30代の外国人女性は数年前、日本人男性と結婚した。約1年後に長女が生まれたが、成長に伴い言語の遅れが目立ち始めた。3歳を過ぎても、自発的に話すのは「ママ」「パパ」など数単語。昨年12月、県内の医療機関で自閉スペクトラム症と診断された。

 女性は日本語が不自由で医師の説明が理解できなかった。帰宅後、母国語の関連サイトを調べ、何とか部分的に内容を把握できた。娘のためにできることはないか―。必死に発達障害の勉強を始めたが、日本語の専門用語が理解できず、本で調べるのは諦めた。母国語のインターネット情報だけが頼りだった。

 日本にいる母国の知り合いはごくわずか。故郷の親族に助けを求めることは難しく、夫も仕事が忙しくて頼れない。女性は、長女の日本語の習得を優先し、母国語の使用を極力控えていた。その影響で、長女は母国語をほぼ理解できない。このことが状況を複雑にした。

 言語の遅れも重なり、親子はつたない日本語でしか意思疎通ができなくなっていた。もどかしい思いの日々が続く。「しあわせ、なりたい、なんで(こんなに)つらい」。女性は涙を流し、声を振り絞った。

 外国にルーツがある親子らと関わる医師や保健師らも言葉、文化の壁に悩む。発達障害の診断や検査では、言葉、行動の観察が重要な判断基準となる。県内のある医師は「言語、文化の異なる外国人の状態を見極めるのは日本人と比べて難しい。日本語の理解力や同席する通訳のレベルによっては、説明が正確に伝わらず、治療できる病気と勘違いされることもある」と打ち明ける。

 福岡国際医療福祉大看護学部の森山ますみ准教授らは2015年、外国人居住者が多い全国100市区町村の保健センター241カ所を対象に、発達障害の外国人小児に関する調査を実施。回答した48カ所のうち約9割が、発達の遅れについて「日本語と外国語が混在した多言語の生活環境によるものか、発達障害が要因か判断が難しい」などと答えたという。

 森山准教授は、外国人が発達障害の情報に簡単に接続できない現状は大きな課題だとし、「易しい日本語の表記や翻訳アプリを充実させるなど、より分かりやすい情報提供の仕組みをつくるべきだ」と指摘。外国人乳幼児の特徴を踏まえた健診方法の確立、外国人も支援対象とする療育施設の拡充、国による専門家育成の必要性などを訴える。