ハローワークの求人検索をする就労支援事業所のスタッフ

 「私の経験を伝えることで、少しでも支える側の役に立ちたい」。群馬県内の工場で働く発達障害の女性はそう話し、過去を打ち明けた。

 女性は幼い頃から、対人関係や文字書き、計算が困難で視聴覚過敏もあった。小学校生活に支障が出て、高学年から不登校に。だが、両親はこの状況に対して一切理解を示さず、女性を自宅に閉じ込めた。

中学では、両親に自宅訪問する担任教諭との接触を絶たれ、卒業式も出席できなかった。父親の暴力がひどくなり、自室でおびえる日々。20年以上、自宅に引きこもる生活が続き、徐々に精神状態が不安定になった。医療機関を受診し、アスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)だったことが分かった

「慎重に仕事を選ぼう」

 外出できない状況が続いていたが、医療機関で出会った人に勧められ、一念発起して就労移行支援事業所に通い始めた。3年間通所し、現在の職場で採用された。今はフルタイムで働き、両親から離れてグループホームで暮らす。「少し前までは考えられなかった生活。料理もするようになった」とほほ笑む。

 ただ、就職までは苦労した。職場体験で参加したスーパーの清掃作業では、買い物客への対応を求められて辛い思いをしたこともある。2年ほど仕事が決まらず焦りがあったが、この経験から『慎重に仕事を選ぼう』と落ち着いたという。

 現在働く工場への就職は、職場体験に参加して決めた。温かい職場の雰囲気に引かれて「何とかやっていける」と感じた。主な仕事は商品の検品や包装、清掃など。規則的に黙々とこなす業務が多く、自身の特性にマッチしている。トラブル対応も徐々に慣れてきた。会社側の配慮も大きい。上司が電卓や電子辞書、防音用イヤーマフなどの使用を認めてくれた。「自分に合っている職場。製品が店に並ぶのを見ると責任感も出てくる」と話す。

 発達障害者は経験しないと自身の苦手分野を把握できないことも多い。「だから、職場体験に参加するのは大切」と女性は強調する。「私は不特定多数の人に話しかけられるのが無理だと実感できた。無理なときは正直に伝えれば良い」

 同僚に差別、偏見の目で見られたことはまだない。同僚との関係性や職場環境がいつまでいい状態が続くかという不安はあるが、女性は前向きだ。「一人前に働いていることを、支えてくれた人たちに見てほしい。それが仕事のモチベーション。ゆくゆくはグループホームも卒業し、1人でしっかり生きていきたい」

適した求人が激減

 人工知能(AI)技術の飛躍的な進歩やサービス業の拡大―。押し寄せる時代の波にのまれるように「発達障害者に適した求人が激減している」。県内のある就労支援事業所の代表、河合祥子さん(54)=仮名=は現状をそう憂える。

 自閉スペクトラム症の特性がある発達障害者は、営業や接客業のように、同時処理やコミュニケーション能力を求められる仕事が苦手なことが多い。逆に、手順が明確化された工場業務や熟練した技が必要な職人作業など、一つのことに集中したり、極めたりする職種で能力を発揮する傾向にある。

 だが、この10年間で、発達障害者に適した求人は「肌感覚で半分以上減った」という。工場の機械設備の自動化が進み、接客や営業などの求人が増えたことが背景にあるとみられる。

 知的能力が高い人は技術者などの職に就けるが、大多数は難しい。不得意な営業や接客業など就職できる範囲が限定されてしまう。「彼らは過去に対人関係で失敗したトラウマを抱えていることも多く、職場や得意先での人間関係がうまくいかない。結局、離職や転職をせざるを得なくなる」と河合さんは嘆く。

 発達障害者に向いている求人が非正規雇用ばかりなのも悩みの種だ。運営する事業所では、過去10年で正社員の採用が1人だけ。介護職の求人も一定数あるが、高齢者の体調に合わせて対処する能力が必要で、職業適性は高くないという。

 正規雇用の条件として、複数の作業を短時間で同時にこなすなど、「正社員と同等の能力」を企業が求める傾向にあることも一因とみられる。

 別の就労支援事業所の代表、蒼山祐美さん(47)=仮名=は非正規雇用の発達障害者の収入を心配する。非正規雇用では、障害者枠のパートなどで平日6~8時間働いても、年収が200万円に満たず、昇給もほとんどない。1人暮らしは難しく、家族も養えない。それがずっと続く。

 家族と同居中はいいが、30~40代の当事者の親は70歳前後だ。ある程度健康で知的障害がない発達障害者は、障害者年金を受給できない場合が多い。「親が亡くなった後の経済状況はどうなるのか…」。蒼山さんは表情を曇らせる。

 ただ、発達障害者の雇用を希望する企業はある。正直で仕事に熱心、作業の確実性が高い人も多い。フットワークが軽い人もいる。「こうした特性の良さに光が当たる社会になってほしい」。河合さんも蒼山さんもそう願っている。