こだわりの日本酒を紹介する坂上さん

 群馬県富岡市の世界遺産「富岡製糸場」に近い日本酒メインのダイニングバー「天流水舎(てんりゅうすいしゃ)」。店主の坂上太祐(だいすけ)さん(44)が35種類ほどの日本酒を試飲していた。開店前に全ての味をチェックし、その日に出す銘柄を厳選するのが日課だ。

 「一升瓶の封を切り、栓を開けると、少しずつ日本酒が熟成されていく。自信を持って薦められる品を、最適なタイミングで飲んでもらいたい」

 成長スピードが異なる日本酒の味は日々変わる。「合格点」に達しない酒は出さないと決めている。使う器や旬の料理を考え、その日に提供する銘柄の順番にこだわる。

 伊勢崎市出身。進学先の青森県で始めたアルバイトで、飲食業の魅力を覚えた。大学卒業後は現地のバーで経験を積み、帰郷。県内の飲食店を渡り歩き、バーテンダーとして腕を磨いた。そんな中、東京の日本酒専門店を訪れ、「人生の方向性が変わるほどの衝撃的を受けた」。酒の奥深さを知り、同じような店を群馬で開きたいと思った。

 日本酒に合う料理を自ら作るため、前橋市の日本料理店に転職。7年かけて調理技術を学んだ。

 富岡市の旧歯科医院を改修し、昨年6月に開業した。50平方メートルほどの店内に5席のカウンター、4人がけのテーブル、10人まで使える座敷席を設けた。

 コロナ下のオープンで、県の要請に協力してきた。営業と休業を繰り返し、常連客をつかみづらい状況が続いた。せっかく仕入れた日本酒の飲み頃が過ぎ、泣く泣く手放したこともあった。

 逆風をはねのけようと、さまざまなアイデアを企画し、次々と実行。協力者が店舗併設の木造2階建てを整備し、今春から民泊施設の運営を始めると、飲食と宿泊のセットを打ち出した。民泊が県の観光支援事業の対象となり、商品券がもらえる市のキャンペーンと合わせれば手ごろな価格で利用できるメリットを生かした。

 敷地内にバーベキュー場もできた。地元精肉店で買った肉を焼いてもらい、飲み物を店で販売する方式で地域との共存を進める。

 店名は諏訪大社(長野県)にあり、どんなに乾いた日でも水がしたたり落ちてくるという伝説を持つ建物が由来。「酒も料理も天からの恵みの水が必要」だからだ。店でセミナーを開く計画もある。「日本酒を好きになるきっかけになるような話をしたい」。自身の日本酒との出合いを夢に重ねる。