アーティストと呼ばれる人と共に仕事をしたことがあるだろうか。あまり積極的に関わろうとしない場合や、そもそも身近にいない場合がほとんどかもしれない。私はオフィスの中にアート作品は必要ではないが、アーティストは必要だと感じている。ここで言うアーティストとはデザイナーのことではない。

 学生時代、「概念崩し」の授業を受けたことがある。既成概念を「〇〇は〇〇である」と50個書き出すステップ1から始まり、ステップ2はそれら全てを「〇〇は〇〇でない」と否定する。その中から自分が取り組めそうなものを選び、作品を作っていく。

 例えば「新聞紙は読む物である」という既成概念を、「新聞紙は読む物ではない」という形に変化させ、読めない新聞紙を考えるのだ。

 ステップ3で、実際に制作した読めない新聞紙をプレゼンテーションする。ある学生は文字を極限まで小さくしたが、虫眼鏡を使えば読めてしまう。別の学生はフェルトペンで黒く塗りつぶしたが裏移りして美しくない。新聞紙を溶かした液体を持ってきた学生もいたが、新聞紙の形状を維持していないなど、他の学生は面白い表現だと思っても難癖をつけて否定する。

 ステップ4は否定を受けとめて再び制作する。文字を極限まで小さくした学生は印刷される前の新聞紙を持ってきた。フェルトペンで黒く塗りつぶした学生は、新聞全体を染料で黒に染めて美しい新聞紙を制作した。新聞紙を溶かした学生は、溶かした水で新聞紙を折り畳んだ大きさの氷を作った。

 「〇〇は〇〇である/ない」の概念崩しではステップ1が一番の難所であり、面白いところである。実際にやってみると、一つの事柄の既成概念を50個書き出すことがとても難しいことに気付く。

 しかし、アーティストはステップ1を簡単に書き出すことができ、さらにステップ2を瞬時に処理しているため、急に変な発言をするように思われがちだ。しかし、この変な発言や発想を取り組みの軸に置くことが面白い結果につながると考えている。

 商品のパッケージにアーティストの作品を使うことはアート的思考ではなく、むしろビジネス的思考だ。アーティストはパッケージよりも購入者に届くまでの過程を楽しくすることに興味を持つかもしれない。その興味をビジネス的思考で否定し(ステップ3)、具体的に解決していくこと(ステップ4)が、それぞれが抱える問題に対して効果的に働くのではないだろうか。

 会社や地域の問題をビジネス的思考で取り上げ、アートを使って解決するという順序よりも、アート的思考で問題を取り上げ、ビジネス的思考で解決する順序にする必要があると考える。そのために、組織の各部署にアーティストの席を一つ用意してはどうだろうか。

 【略歴】中之条ビエンナーレ出展を機に2018年から町地域おこし協力隊員として活動。任期後、定住し創作を続ける。長崎県出身。東京芸術大大学院修士課程修了。

2022/6/1掲載