公共施設整備における設計は、理念として描かれる施設構想を具体的な形にする段階です。設計者の良否は施設の将来を左右します。
全国の地方自治体による設計者選定の状況は国土交通省のウェブサイトで確認することができます。「官公庁施設の設計業務に関する実態調査2017」によると、2016年に発注した新築(延べ面積300平方メートル超で基本設計を含むものに限る)の件数ベースで最も多い選定方式は価格競争方式(入札)です。都道府県・政令市では60%、市町村では72%を占めます。次いでプロポーザル方式がそれぞれ28%、23%でした。調査対象外の修繕や増築、小規模新築などでは、入札がさらに多いと思われます。
入札とは設計報酬の多寡を競い、価格を安く提示した者が受注する方法です。一方、プロポーザル方式は最も適した提案書(プロポーザル)を示した者を選定する方法です。入札による契約金額の多寡は市民に説明しやすく、事務手続きも簡単に済む利点があります。
公共事業は税金を効果的に使うことが求められます。公共施設の設計も例外ではありません。現在、日本の設計者の選定方式として入札が最も多いのはそのためだと思われます。
商品として流通する物品を購入する場合には、こうした価格での競争に合理性があります。しかし、建築の質は設計者の力量によるので、発注価格が安いために質の低い設計者が選ばれる恐れがあります。しかも、このような懸念は予測が不能です。いくら構想や計画などを周到に準備しても、単純な価格競争を導入したために期待する成果が得られないことさえ起こってしまいます。
公共施設の設計では、敷地条件も備えるべき機能も一つ一つ異なります。つまり、どんな公共施設の設計も一品生産物であり、一つとして同じ設計案は存在しません。価値が異なる設計案を価格で比較しても意味がありません。しかも、成果が出る前に見込みで設計者を選定しなければならないため、既に実物が存在する商品を選ぶのとは区別して考えるべきです。
公共施設には、歴史や街並みなどを含め地域の特性を反映し、さらには地域を象徴する資源としての役割も期待されます。ここには設計者の解釈と工夫がものを言います。こうした質的価値の創造のためには、価格競争を求めるのではなく、設計内容で競うことを求めた方がはるかに高い費用対効果を得ることができます。
ちなみに、設計やデザインなどの知的生産行為の選定を入札に頼る先進国は、日本以外ではほとんど見あたりません。
次回は、質的価値を高める設計者選定方法について述べます。
【略歴】1979年、県入庁。定年退職後も全国の自治体や各種団体の設計者選定に関わる。主な受賞歴に土木学会デザイン賞、これからの建築士賞など。
2022/6/3掲載