▼10年前、スペインの片田舎の教会にあったキリストの絵が地元の女性画家によって無断で“修復”され、話題となった。元の絵とは似ても似つかぬ猿のような姿に変わってしまったことから「史上最悪の修復」と非難された

 ▼騒動が知れわたると、「猿のキリスト」を一目見ようと観光客が殺到。皮肉にも、批判を巻き起こした修復画が小さな町に予想外の観光収入をもたらすことになった

 ▼地域振興としては「結果オーライ」とも言えるエピソードだが、これが世界遺産の建物に描かれた壁画のように、文化的価値が高い作品だったらどうだったか。相応な作業が求められたに違いない

 ▼「いかに信頼できる修復業者を確保するか」。セルビアにある世界遺産の修道院で昨年、壁画の修復事業をコーディネートした実践女子大非常勤講師の嶋田紗千さん(44)=前橋市出身=は留意点の一つをこう振り返る

 ▼ユーゴスラビア時代に留学して美術史を学んだ経験があり、「恩返し」の思いから事業を企画。当時の人脈を頼りに腕の確かな職人に修復を委託し、2カ月に及んだ事業を無事に終えた。堅実に進められた嶋田さんらの取り組みには先日、駐日セルビア大使から賛辞が贈られている

 ▼歴史ある芸術作品は、地域の文化の礎とも言える。修復失敗の話は各国から時折届くが、一つでも多くの作品が価値を損なうことなく次代へ引き継がれるといい。