火災が発生したと想定した建物に放水する林記者(手前)=3日午後2時半ごろ、前橋市朝日町の中央消防署
防火服を着て20分間走に参加する林記者(中央)=3日午後3時50分ごろ、前橋市朝日町の中央消防署

 夏真っ盛りでも重装備で火災に立ち向かう消防隊。活動中に自分が熱中症になってしまったら人命や財産を守れない。そこで、この時期から暑さに体を慣らす「暑熱順化訓練」を毎年行っているという。一体どんなものだろう。前橋市消防局・中央消防署で3日午後、記者が暑くて熱い訓練を体験させてもらった。

 この日、前橋の最高気温は26.5度。午前は半袖で過ごしたが、消防署で渡された長袖の防火衣はごわごわして重みがあった。

 体の動きがかなり制約され、着ること自体が大変だ。サスペンダーでズボンを留め、上着のチャックを締めることすら、てこずった。表面は燃えにくく処理され、火災の熱を通さないインナーが付いている。「夏はサウナスーツのよう。でも安全のためです」と山田聡第2小隊長。1分足らずで事もなげに着装する姿に頼もしさを感じた。

■「ヤバイ」しか

 なんとか着装し、「訓練前の予習」として放水を体験した。直径40ミリのホースのノズル部分を抱え、訓練用の建物に向ける。タンク車に合図し、「放水開始」と声を出した。水圧は0.8メガパスカル。別の隊員が手を添えてくれても、のけぞりそうになった。最後の10秒ほどは1人で持ったが、高所に水を送り続けるのは足腰がつらかった。

 たった15分で汗だくになり、水分補給した。本格的な訓練前にもかかわらず、早くも「ヤバイ」としか感想を言えなくなった。

 〈前橋消防から各局。建物火災。現場、前橋市朝日町…〉。

 無線が火災発生を告げた。いよいよ訓練開始だ。

 〈人命救助最優先、延焼防止を意識して活動に当たれ〉

 タンク車に乗って火元の建物前へ。第2中隊の5部隊19人が消防車両6台を展開した。役割に応じててきぱきと動く。排煙機を作動、建物に突入。はしご車も伸びた。関口秀行第1小隊長の指導で、ホースがしっかり接続できているか確認した。

 防火衣はじわじわと暑く、身動きが取りにくい。その上にボンベのような空気呼吸器を背負うと装備だけで20キロを超えるという。

 この装備は視界もよくない。建物から要救助者を運び出したのだが、階段を上る時に周りの隊員に気を配れず、ぶつかりそうになった。「本当の火災現場は煙で何も見えない」と関口小隊長。手すりや足場を頼りに、知らない空間を動き回り、手探りで救助者を探すという。普段の訓練で養うチームワークの大切さを思い知らされた。

 訓練終了までの25分間でへとへとになった。空気呼吸器を下ろすと体が解放感に包まれた。隊員はすかさず全員で訓練を振り返り、真剣な表情で細かい課題を洗い出していた。

■本気の表情

 暑熱順化訓練の本番は、実はこれから。火災に対応する訓練で体を動かした後に20分間、1キロ7分ペースでひたすら走った。給水しつつ、励まされながら何とか最後のガッツを見せた。

 訓練は5月ごろから週1回を目安に7回以上行い、夏本番に備えるという。50歳の山田小隊長は若い頃、がむしゃらに働いて脱水症状を起こした経験があるそうだ。「助ける側が自分の身を守るのは最低限のこと。負荷のかかる訓練を続け、今は訓練や出動中もこまめに水を飲む」と説明してくれた。

 訓練を通して印象に残るのは、建物突入前、隊員間で指示を確認する時の関口小隊長の緊迫した声と本気の表情。隊員は最初から屈強な消防士として生まれたわけではない。人を助けたいという思いで日々過酷な訓練に臨み、体力と組織力を育てていた。

 消防士がすぐに出動して助けてくれる社会を当たり前に思ってはいけない。そう痛感した。