お座敷列車の校舎で指導に当たる倉嶋さん

 えんじ色の列車内から元気な声が響く。畳敷き、障子窓の列車は、群馬県桐生市の県立ぐんま昆虫の森に近い私塾「アンシャ」の校舎。学校以外で学びの場を提供するオルタナティブスクールだ。子どもたちがそれぞれお薦めする本の内容や好きな理由をはきはきと発表すると、代表の倉嶋仁美さん(39)は目を細めて助言した。

 コロナ禍で3カ月の休校が続いた2020年春、倉嶋さんは小学校非常勤講師をしていた。自宅学習が当たり前になった頃、小学6年の次男が「学校へ行かなくても、いいかな」と切り出した。「クラスの人気者、思ったことをずばずば言う性格」と思っていた。ただ4年生ごろから登校を渋りがちになり、コロナを契機に不登校になった。

 「この際、同じような子どもたちのために、もう一つの選択肢をつくろう」。倉嶋さんは不登校児のための居場所づくりを決意。手ごろな物件を探していたところ、友人の紹介で旧列車2両を借りることができた。著書「窓際のトットちゃん」で知られる女優の黒柳徹子さんが登校したトモエ学園も、廃電車両が校舎だった。「トモエ学園の小林宗作先生のようなユニークな教育を実践したい」。倉嶋さんの夢は膨らんだ。

 21年春、倉嶋さんはアンシャに初めて児童3人を迎えた。現在は小学2年から中学1年までの10人が学ぶ。子どもたちは家族らの送迎で週3日通い、週2日は自宅からインターネットで遠隔授業を受ける。スクールカウンセラー1人を含む女性4人が授業を補助する。

 ある塾生(13)は小学校の卒業記念として3月、列車内で鉄道写真展を開いた。案内状や看板、収支計算など全て独力で行うよう指導を受けた。

 絵を描くのが好き、プログラミングが得意―。他の塾生も、それぞれ「(キャラクターが)とがっている」と倉嶋さんは語る。個性を大切に、自分で起業できる能力を身に付けさせたいと願っている。

 塾で学んだ児童について前橋、桐生両市、榛東村の在籍校は出席扱いとする。プレ開校から1周年となった4月の開校式典には、荒木恵司桐生市長が出席し、祝辞を述べた。コロナ下に手探りで始めた私塾は徐々に認知されてきた。

 倉嶋さんは「子どもたちのために最善の教育環境をつくりたい。学校法人も視野に、今できることに全力で打ち込みたい」と前を見る。