日本は本格的な人口減少時代に入っている。地域社会の衰退は企業団体にとっても事業継続に直結する難題だ。前橋市の広瀬団地=ズーム=では建物の老朽化とともに、コミュニティーの高齢化と空洞化が進む。前橋工科大の学生が団地に住みながら当事者として課題の解決に挑むプロジェクト「LIFORT(リフォート)」には、こうした危機感を抱く地元の企業や団体が参画。学生の活動を支えながら、将来に光を見いだそうと模索する。

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 「リフォート」は、日本財団と信金中央金庫、全国信用金庫協会が連携して取り組む助成事業「わがまち基金」に採択された。2020年12月~23年11月の3カ年で事業費1千万円。学生主体の取り組みとはいえ、資金があるのが特徴だ。

 

 今年4月にシェアハウスとしてリノベーションした県住宅供給公社(前橋市)の賃貸集合住宅に学生が入居し、本格的にスタートした。

 ベースとなったのは前橋工科大と桐生信用金庫(桐生市)、同公社、NPO法人リデザインマネジメント研究所(東京都)、家具販売や空間プロデュースを手がけるスタイル(伊勢崎市)の協定だ。学生らが居住しながら自ら感じた課題を解決する。協定を結ぶ企業や団体は得意分野を生かし、活動を支える。

 大学はさらに、群馬トヨペット(前橋市)と連携し大学―広瀬団地間などで運用するシェアカーを展開。生活協同組合コープぐんま(桐生市)が使用する団地内のテナントスペースは、住民との交流拠点「広瀬ステーション」として共同利用している。 

 これらの企業や団体の担当者は毎月の「リフォート会議」で一堂に会し、学生らを交えて活動方針を議論している。

広瀬団地での活動について話し合う学生や協力企業、団体の関係者=5月26日、前橋市広瀬町の広瀬ステーション
ズーム/広瀬団地 1966年から入居が始まった県内最大規模の団地。県営住宅658戸、市営住宅1535戸、県住宅供給公社の賃貸住宅112戸があり、施設の老朽化や入居世帯の高齢化といった課題に直面している。このうち公社賃貸住宅4戸を社会実験に活用する。

桐生信金・地域の担い手育成 移住者呼ぶ魅力探る

 プロジェクトの中核を担う桐生信用金庫はこれまでも地域活性化に注力してきた。背景には、営業基盤である桐生みどり地域の活力が失われつつあるとの危機感がある。

 桐生市や桐生商工会議所と三者協定を結び、地元企業への幅広い支援を続けるが、それでも人口減少に歯止めがかからない。後継者不足などから中小事業所数の減少も著しい。

 新たな成長を求め、10月には創業地の同市から太田市へ本社機能の一部を移転する。桐生みどり地域での営業力を維持した上で、自動車関連など産業が集積する太田邑楽地域などへの展開に本腰を入れる方針だ。

 プロジェクトを通じて模索するのは大きく2点。まずは県内各地にある団地で多世代協働を促せるモデルができないか。もう一つは他地域からの移住者や定住者を呼び込めるような魅力ある地域の在り方だ。

 同大は学生の7割が県外出身だ。多くが卒業後に東京や出身地などへ再び転出してしまう。「学生たちが県内に就職して定住してくれれば、地元経済や地域社会の有望な担い手になる」。同金庫中小企業センターの宮内欣則推進役はプロジェクトに懸ける期待を語る。

 営業エリアが限られる地域金融機関としては若年層の顧客獲得も課題。プロジェクトで入居した学生が同金庫前橋東支店で新規口座を開くといった手応えもある。宮内さんは「プロジェクトを通じて知名度を高め、身近な金融機関として認知されるといい」とする。

 一方、県内各地の公営住宅など計2万戸以上を管理する県住宅供給公社。高度成長期に建てられた物件が多く、高齢化などで住民コミュニティーが失われつつあることが懸案だ。

 総務部・事業部の森下健一部長は「住んでくれる人に喜んでもらえるような付加価値が求められている。団地運営の新たなヒントを見つけられたら」と話す。

群馬トヨペット・カーシェアリング 事業化見据え初運用

プロジェクトに欠かせない移動手段となっているシェアカー。登録すればスマホ一つで利用できる=5日、前橋工科大

 広瀬団地の再生は、リノベーションしたシェアハウスに前橋工科大の学生が住むことを前提にするが、大学には約3キロ、中心市街地までも距離がある。生活には移動手段が欠かせない。通学やプロジェクトで足となるのが、車を共同使用するカーシェアリングだ。

 群馬トヨペットが乗用車1台を提供し、昨年4月にスタートした。スマートフォンのアプリで予約し、15分200円で利用できる。乗り出しや返却拠点は大学と団地、前橋市中心街の計3カ所を設けた。同社がシェアカーを運用するのは初めてだ。

 プロジェクトへの参加について群馬トヨペット経営企画部の山崎光政部長(48)は「地域が活性化することで、私たちの事業も続けられる。地元の企業として応援したい」と話す。もちろん自動車ディーラーとして若者に車に親しんでほしいという思いがある。

 シェアカーは昨年度、計111回利用され、売り上げは14万9千円だった。経費は車両の保険やシステム使用料など。黒字化が見込め、販売店での事業化も見据える。

 ライフスタイルの多様化で、自動車ユーザーの状況は変わりつつある。内閣府の今年3月の消費動向調査によると、乗用車の普及率は20代以下の2人以上世帯で73.7%。10年前より11.7ポイントも低下した。一方、必要な時だけ車を使うカーシェアは拡大が見込まれている。

 堤洋樹准教授(49)は「プロジェクトを続けていくためには、協力してくれる企業や団体にメリットがあることが欠かせない」と指摘する。シェアカーの利用対象者を広げるなどして、使用頻度も高めたい考えだ。

コープぐんま・広瀬ステーション 交流拠点 活用法が鍵

 生活協同組合コープぐんまはかつて広瀬団地に店舗を構えていた。現在の交流拠点「広瀬ステーション」は閉店後にできた組合員用の受取所だが、空き時間を交流場所として活用してもらおうと前橋工科大に無償で提供。本年度は堤洋樹准教授の研究室(堤研)のゼミや「リフォート」定例会議の場として利用している。今後、この空間をどう活用するか。成否が団地のコミュニティー復活の鍵を握る。

 「コープ広瀬店」があったのは団地がにぎわっていた昭和から平成の時代にかけてだ。2001年に閉店したものの、組合員が週1回注文商品を受け取る「ステーション」を開設。地域とのつながりを断つことなく守る意味があったという。

 その狙いを発展させたのが、大学が広瀬団地の再生に向けて走り出した20年度。堤准教授の呼びかけもあり、スペースの利活用に向けた連携協定を締結した。将来は学生の収益事業として成り立ち、人が集まれるよう、カフェができるような改修も施した。

 組合の杉本真佐己常任理事(59)は「『地域にいかに貢献できるか』が組合の理念。若い学生と関わり、地域の役に立てるようにいろいろと吸収したい」と話す。

 今後の利活用は、団地に住む学生たちが検討する。ただ、現在の入居学生は1人。団地の周知も含め、堤研の学生らは6月18日、ステーションで1年生対象のワークショップを企画した。4年の土田裕喜さん(22)は「堤研としての最大の目的は、学生に住んでもらうこと。そのステップにしたい」と言う。

 産学官連携をサポートするNPO法人リデザインマネジメント研究所職員で、団地に住みながら学生を見守る大学OBの近野成宏さん(25)は、ステーションで仕事をしていると地域住民が声をかけてくれるという。「地域の人たちの活動拠点にもつなげたい」。そう期待する。