ウメはバラ科アンズ属に分類され、果実に位置付けられている。糖分が少なく、酸味が強いことから、古くから加工食品として利用されてきた。脂肪肝の原因となる、肝臓の中性脂肪の蓄積を抑制する作用が期待されている。

高崎健康福祉大農学部生物生産学科教授 松岡 寛樹さん 

由来

 6世紀ごろの中国の農書『斉民要術』には、「白梅(ほしうめ)」という現在の梅干しの原型についての記述があり、調味料や薬味として利用されていました。
 日本には7世紀ごろに伝わり、平安時代には村上天皇が、梅干しと昆布茶で疫病を鎮めたとされます。古くから解毒、整腸、食あたりなどに効果があり、健康食品としても利用されていました。

 漢方生薬では烏梅(うばい)とも呼びます。前述した目的以外にも、虫の駆除や抗アレルギー、下痢止めやせき止めのために使われています。

 昨年のウメの出荷量は全国で9万3200トン、最大の産地である和歌山県が約7割の6万5200トンを占めています。本県は第2位で5290トン(約6%)です。

 大粒の品種は南高や白加賀、小粒では竜峡小梅や甲州小梅などがあります。南高梅は皮が薄く果肉が厚いため、梅干しに最適です。本県で多く栽培されているのは白加賀で、香りが良いため、主に梅酒の原料に使われています。

栄養成分

 酸味のもととなる有機酸が5~6%含まれ、クエン酸4.6%、リンゴ酸1.2%からなっています。糖質が少ないためエネルギーは小さく、梅干し一粒の可食部を20グラムと考えると、6キロカロリーしかありません。塩分は高く、塩漬けの梅干しで4.5グラム、調味梅干しでは1.5グラムとなります。そのほか、マンガン、クロム、モリブデンといった微量ミネラルも含まれています。

 2005年ごろから機能性研究が行われるようになり、梅肉エキスや梅酢にリグナン類やポリフェノール類が含まれていることが明らかになってきました。動物実験によると、梅酢によって血圧上昇の抑制効果や脂質代謝の改善、肝臓の中性脂肪蓄積に対する抑制作用、さらにはインフルエンザや新型コロナウイルスにも効果があることが分かってきました。

 「梅は三毒を断つ」ということわざがあるように、薬食として知られてきました。体のさまざまな機能を改善する効果が科学的に裏付けられており、今後の活用が期待される食材です。

レシピ/梅ゼリー

エネルギー110kcal/たんぱく質2.6g/炭水化物25.3g/塩分0.05g

群馬大医学部附属病院 栄養管理部副部長 斉賀 桐子さん
 ウメに含まれるクエン酸は、食中毒予防や食欲増進のほか、カルシウムの吸収をサポートしてくれます。これからの暑い季節に、甘酸っぱい梅ゼリーはいかがでしょうか。

◆材料(1人分)
梅シロップ(青梅1kgと上白糖800gで作る)50cc、水25cc、お湯50cc、粉ゼラチン2.5g
◆作り方
①青梅1キロをよく洗い、水分を拭き取り大きい瓶に入れる。上から上白糖を800グラムをまぶし、そのまま2週間ほど置くと、ウメの中から水分が出て梅シロップができる。
②お湯に粉ゼラチンを入れてよく溶かしたら、水と①で作った梅シロップ、刻んだウメの実を少々加える。コップなどの容器に入れて冷蔵庫で冷やせば出来上がり。


 

 榛名、秋間とともに「ぐんま三大梅林」といわれる高崎市の箕郷梅林。花の見頃を終え4月に入ると、青々した実が付き始める。収獲は5月下旬から始まり、作業は1カ月近く続く。箕郷地域で30年以上ウメの栽培を手掛ける中里明義さん(67)は、家族らと一粒一粒、丁寧に摘み取っている。

収量安定へ新品種導入

 箕郷地域でウメ栽培が始まったのは1970年代。養蚕業に代わる新たな収益として広がった。中里さんの父、治男さん(92)が桑をウメに順次植え替えていき、昭和から平成に移るころ、本格的に栽培を始めた。現在、中里さんが手掛けるウメの栽培面積は1.5ヘクタール、年間約10トン出荷している。

収穫したウメを手にする中里さん(前列中央)家族ら

1人80キロ 手で収穫

 収穫は家族ら総出で行う。一枝ごと実を取り残さないよう、手際良くもいで、肩にかけた袋に入れていく。1日の収穫量は1人80キロにも及び、雨の日でも休まず作業する。「今年は収獲目前にひょうが降り、傷付いたウメも出た。数年に1度は被害が出てしまうが、良いものを出荷するという気持ちは変わらない」と中里さんは前を向く。

 一息つくと、すぐに来季の収穫に向けた管理が始まる。7月末から1カ月間、葉や枝に十分光が届くように重なり合う枝を切り落とす。翌年多くの花を付けさせるため、9月に肥料をたっぷり与える。

 12月~2月の剪定(せんてい)は、バランス良く実が付くよう、2、3年後の枝の形を想像しながら行う。大きさや品質、収量が左右される重要な作業だ。冬場のカイガラムシや春先のアブラムシなどの害虫防除も欠かせない。

効率的な栽培模索

 中里さんが栽培するウメの6割は「白加賀」。大粒で果肉が厚く果汁が多い品種で、主に梅酒用として出荷している。「梅郷(ばいごう)」や小粒の「織姫」「甲州」は、梅干しやカリカリ梅、ジュースやドレッシングなど、さまざまな商品に加工されている。

中里さんが手掛けている梅干し。熟してから収穫して漬けている

 ウメを実らせるには、他品種の花粉を受粉させる必要があり、開花に合わせてミツバチを放している。主力の白加賀と同じ頃に花が咲く品種が少ないため、収量を安定させることが課題となっていた。

 4年ほど前から各農家で導入しているのが、県が育成した新品種「群馬U6号」。白加賀と同時期の開花で受粉樹に適しているとされ、中里さんは「導入から日が浅いので効果はまだ分かっていないが、安定生産につながるといい」と期待する。

 群馬U6号をはじめ、さまざまな品種と白加賀との受粉の効果を調べたいという中里さん。今年4月に県内のウメ生産者でつくる県共計生梅運営委員会の会長に就任し、持続可能な生産の在り方を模索する。「収入が安定して高齢化する農家の後継者も増えるよう、効率的な栽培方法の研究を進めたい」と将来を見据えた対策を考えている。

メ モ
 県内の主なウメの産地は高崎市と安中市。両市で県内の栽培面積の約95%を占める。農林水産省によると、2021年産の栽培面積906ヘクタール、出荷量5290トンはともに和歌山県に次いで全国2位。家庭でも育てられ、異なる品種を植えて木を低く枝の中心まで日が当たるように剪定する。9月に肥料を与え、実ができたら肥料をやり過ぎないことがポイント。
制作協力/群馬県農政部