中傷や性犯罪、詐欺―。現実世界で長く根絶されない問題が今、生活に欠かせないほど身近になったサイバー空間で展開されている。インターネットの匿名性や専門性は時に事態を深刻化させる。被害者、そして加害者にならないために何が必要か。県内でも被害者支援や教育が進んでいる。

 〈こいつ嫌い〉

 群馬県前橋市出身のIT企業代表、関口舞さん(31)=東京都=は2020年秋ごろから、インスタグラムに投稿した自身の写真が無断でツイッターに転載され始めた。特定のアカウントに、容姿などに対する端的な悪口を継続的に書かれるようになった。

 テレビ番組にコメンテーターとして出演し始めた時期だった。ひどい言葉を書かれたショック、粘着される怖さ。赤の他人によって、不特定多数の人が目にする場でさらされるのも嫌だった。応援してくれる人に気を遣わせたことも含め「きついなと思った」。

 そのアカウントは、女性芸能人らのツイッターにも容姿に関する悪口を次々と投稿していた。動機を理解できなかった。

 中傷に当たる投稿だとしてツイッターの運営元に連絡したが応答はない。「通報が多すぎるのかも」。他にどんな対応ができるか知ろうと弁護士事務所を訪ねた。判例に照らし、発信者情報を開示請求できそうなケースだと分かった。それで肩の荷が降りた。

 救済手段が分かるだけでも、ネットで中傷被害に遭った人の支えになれると気付いた。「結果的に訴えなくてもいいと私は思っている」。弁護士に相談する心のハードルを下げたいと感じた。

 関口さんは2月、IT起業家としてのキャリアを生かし、弁護士らと協力してSNS上のトラブルに関する判例をまとめたサイト「TOMARIGI(トマリギ)」を開いた。

 程度も内容も異なる中傷被害に対し、取り得る対応策を調べることができる。「加害者は悪いことだと知りつつ、相手を傷つけたいから止められない」。加害者側に開示請求の対象になるケースだと伝え、それ以上の書き込みを思いとどまらせることも念頭にある。

 中学時代、前橋にいながら世界中の人とつながれるネットの力に引かれた関口さん。学生向けのSNSなど、ネットを介したコミュニケーションを深めるツールを開発してきた。「ネットでやってきたからこそ、負の側面に対してもできることを探したかった」と、TOMARIGIに込めた思いを語った。

 ネット上の中傷は「本人に届きやすい」と指摘する。現実世界でどこにいても、何をしていても存在するため「心が休まらない」。それは閉じたコミュニティーで実際に集まって交わされていた旧来の陰口とは絶対的に異なる。

 ネットは身元を伏せるからこそ本音が言え、居場所にも発表の場にもなり得ると考えている。だが、その匿名性が中傷を投稿するハードルを下げてしまう。利点を本来の形で生かすためにもリテラシー教育の充実を訴える。「小学生でもSNSを使う時代。使い方を教えないのは危ない武器を持たせるのと同じだ」

判例サイトを開設した関口さん。中傷への悩みを共有するスペースもあり「SNSで傷付いた心を癒やす場にしたい」と話す

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