第三者の卵子または精子を用いて女性が出産した場合、生物学上はそれらを提供した者と親子関係にありますが、法律上の親は誰になるのでしょうか。

 この点を民法の特例として法律上明確にしたのが「生殖補助医療法」です。

 この法律では、女性が自分以外の卵子を用いた生殖補助医療(人工授精、体外受精、体外受精胚移植を用いた方法)によって子を出産したときは、出産した女性をその子の母とするとされています。これは、出産により法律上の母子関係が生じるとされていることを明確化したものです。

 他方、妻が夫の同意を得て、夫以外の男性の精子を用いた生殖補助医療によって出産した子については、夫はその子が嫡出であることを否認できない、つまり、その子はその夫の子となります。

 このように、第三者提供による生殖補助医療における親子関係は法律で明確にされた点もありますが、これによって生まれた子が、生物学上の母や父を知る権利を認めるべきなのか否か、いわゆる「出自を知る権利」の問題が議論の一つとしてあります。

 以前から、提供者は秘密にするべきだと考えられてきました。これは、①提供者と子の法的な問題(認知や養育費の請求など)への懸念②生物学上の子が突然現れ、提供者やその家族の生活の平穏が保てなくなる恐れ③生物学上の親が突然現れ、子がその事実を知り、子と法律上の親との間に問題が生じる恐れ④提供者を秘密にすることによって安心して提供できる―などが理由です。

 しかし、子からすれば、自分と生物学的なつながりのある親を知ることは、自分が何者であるかを知ることです。子がアイデンティティーを確立する上で重要な事柄と言えるでしょう。

 親からすれば、提供者の情報が秘匿であるからこそ、第三者提供による生殖補助医療に踏み切れるのかもしれません。一方で、情報開示が制度として確立することで、いつか、ふいに子に明らかになってしまうのではないか、いつ、どのように子に告げるべきか、といった不安から、ある程度解放されるかもしれません。

 出自を知ることの重要性からすれば、提供者が情報開示の可否を決めるのではなく、子による情報開示制度を認めるべきだと考えます。もっとも、開示の対象を提供者の特定につながらない情報に限るのか、特定につながる情報も含むのかなど、検討しなければならない点はあります。

 出自を知る権利については超党派の議員連盟があり、今後国会で議論が深まるでしょう。ただ、晩婚化などによりこの問題はますます身近になるはずです。国会任せにせず、親と子それぞれの視点から一人一人が考える必要があると思います。

 【略歴】群馬弁護士会の外国人の権利問題対策委員会委員長を務めた後、両性の平等に関する委員会委員長。東北大法科大学院修了。島田一成法律事務所所属。

2022/6/18掲載