仲間と一緒に空き家を手直しし、1棟貸しのレンタルスペース「仲町はなれ」を造ることになった時、私の中で一番譲れなかったのは「備え付けの大型遊具を造ること」だった。
想像してほしい。家という生活空間の中に滑り台が造り付けてあるのだ。大人も子どももワクワクしてしまうだろう。遊具にこだわった理由はいくつかあるが、一番は仲町はなれを「親子が楽しめる空間」にしたかったからだ。家族で過ごす時間を大切にしてほしいと思ったのだ。
本年度から改正育児・介護休業法が施行され、男性が育児休業を取得しやすい環境を整備するようになっている。日本の男性の育休取得率は少しずつ上昇傾向にあるが、私の身近なところで「夫が育休を取得した」という話を耳にすることはまだない。
そもそも、育休は母親も父親も関係なく、原則子どもが1歳になる前日まで取得でき、どの会社も対象になっている国の制度だ。それなのに、なぜ男性は育休を取得しづらいのか。
私は4月に出産し、現在は育休中である。夫がこれを取得することはなかったし、今後もその予定はない。話題にならなかったわけではないが、一つの部署を受け持つ立場にある夫には、育休を取るという考えは初めからなかった。「あなたが育休を取らなかったら下の世代も取れない。後輩のために取るべきだ」と話したこともあったが、夫の考えは変わらなかった。
取得が進まないのは家庭の事情や男性自身の考えに加え、会社の意識もあるのではないか。法律やその意義を理解していても、実際そうした状況になると、「前例がない」「休まれては困る」といった本音が出てきてしまう。何よりそうした空気が組織全体に流れていないだろうか。
最近の夫の楽しみは、子どもを抱いてあやすこと、寝ている子どもの鼻に自分の鼻をこすりつけて遊ぶこと、子どもを風呂に入れること。子どもと過ごす時間が一番の楽しみであり、癒やしなのだという。しかし、夫にとって「特別」なこの時間は、妻の私にとっては毎日の「生活」だ。そう考えると、大好きなわが子と関わる時間をなかなか持てない夫がかわいそうに思えてしまう。
子どもの世話をしたい男親ばかりではないかもしれないが、いずれにしても男性の育休取得率はもっと上がるべきだと考える。なぜなら、子育ては母親にとっても父親にとっても平等なものであり、なにより育休で得られる時間は、「妻と夫」から「母親と父親」になるために必要な時間だと思うからだ。
日本でも早く男性の育休が当たり前になるといい。せめて子どもが幼い間だけでも、かけがえのない家族の時間を大切にできる社会になってほしい。
【略歴】保育士として働き、結婚を機に桐生に移住。2020年に設立した合同会社の一員として、古民家を改修した貸しスペース「仲町はなれ」の運営などに携わる。
2022/6/24掲載