「正直に腹を立てずに撓(たゆ)まず励め」。これは私の出身小学校である前橋桃井小の基本目標だ。同校出身で、終戦時の首相、鈴木貫太郎の言葉である。子どもの頃に深く考えることはなかったが、年を重ねていくうちにその意味を理解し、共感できることも多い。

 新型コロナウイルス感染症が広がって1年半が過ぎる。その中でこの鈴木貫太郎の言葉が脳裏に浮かぶことが増えた。これまで当たり前だった生活にさまざまな制限がかかり、思うように活動できないこともある。もどかしさや憤りを感じることも少なくない。たまたま時代の流れとコロナ禍が重なっただけかもしれないが、閉店、閉園、終了、退所、引退、死去など「終わり」を連想させる言葉を多く目にするようになった気がして、寂しさすら感じることもある。このコロナ禍が「深い眠りから覚めたら、なんだ夢だったのか」というドラマのような結末には、もちろんならない。この先もコロナと共存していくのが現実だろう。

 世の中はコロナ禍に順応しようと動き始めてはいるが、なんとなく時が止まったような感覚になる。私自身は少し立ち止まり、人生を振り返り、これからのことを改めて考える機会が前より多くなった気がする。しかし、現実は時間は止まることはなく常に進んでいる。悩んだり、迷ったり、後悔したり、遠回りしたり、立ち止まったりもするが、二度と来ないこの瞬間を大切にしたい。そして、楽しみたい。

 社会で生きていくには世間体や多くのしがらみもある。しかし、自分の人生を生きるのに遠慮はいらない。行きたいところがあるなら行く。会いたい人がいるなら会う。やりたいことがあるならやる。人生は自分が思うより短い。いつ終わるか分からないから、自分に素直に正直になるのも良いのではないか。人生という限りある期間で、苦しいことも楽しいことも、さまざまな経験をさせてもらえていることに感謝しながら、自分の歩幅で歩み続けていきたい。

 夢は必ずしもかなうわけではない。大事なのはかなえるのではなく、夢を持ち人生を少しでも前向きに楽しんでいくことだと思う。まだまだ夢への長い旅路の途中ではあるが、放送中のドラマ『ドクターX~外科医・大門未知子~』シーズン7に、今回も外科医局員役で出演させていただいている。撮影中は緊張や集中で楽しむことを忘れそうになるが、ここにいられることに感謝し、思いきり楽しもうと思う。ぜひご覧ください。

 1年間「視点」に寄稿してきた。掲載されるたびに家族や友人と懐かしい思い出を語り合ったり、近況を報告し合ったりできた。また一つ、人生が豊かになる経験をさせてもらい、うれしく思う。



俳優、金魚愛好家 中嶋秀人

 【略歴】ドラマ「ドクターX」やCM「エバラ黄金の味」に出演。手話を通じた俳優業にも取り組む。社会福祉士や保育士などの資格を持つ。前橋市出身。

2021/10/31掲載