31日投開票の第49回衆院選では、公約に積極的な経済政策を掲げている政党が多い。しかし現役の財務次官は月刊誌への寄稿で与野党の政策論争を「バラマキ合戦」と指摘。財政破綻の可能性を示唆し、波紋が広がった。コロナ禍など、経済的な危機状況に陥る可能性のときには積極的な財政支出が正当化される場合があるが、中長期的に見れば財政再建は避けては通れない日本の課題である。

 国債に代表される国の借金は昨年12月末時点で初めて1200兆円を突破し、国民1人当たりの借金は約1千万円となっている。例えば夫婦と子ども2人の世帯の場合では、約4千万円の借金に相当する。他の先進諸国と比較して突出して高い水準であり、将来の物価高騰が危ぶまれる。日本とは経済的な環境が大きく異なるため単純な比較はできないが、最近の事例では、ベネズエラが財政難に陥り、紙幣の増刷で財政赤字の穴埋めを行い、短期間で急激なインフレが生じている。

 インフレ率の急上昇が生じたとき、利益を得るのは借金をしている政府であり、損失を被るのは金融資産を国債や預金で保有する国民だ。例えば物価が2倍になったときには、それまで1万円で買えたものが2万円払わないと買えないことになり、お金の持つ価値が下がる。実際、1973年に始まった第1次オイルショックでは原油価格が高騰し、物価の大幅な上昇を経験した。その時は金利が大幅に上昇することはなかったため、預貯金の実質的な価値が下がり、損失を被った国民は少なくない。

 数年前の金融庁の推計によると、年長者が保有する金融資産は膨大で、家計金融資産の約3分の2を60歳以上の世帯が保有しているとされる。急激なインフレにより高齢者の資産寿命が短くなると、家計の状況が危機的なものになってしまうことが危惧される。

 経済環境の変化から自分の財産を守るためには、お金の運用先を集中させずに、性質の異なる複数の資産に分散投資を行うことが効果的だ。そのためには、金融に関するさまざまな知識やスキルを正しく理解し、効果的に活用することのできる能力「金融リテラシー」を身に付けることが必要である。ところが、2019年に金融広報中央委員会が実施した国際比較調査では、日本は先進国の中で金融リテラシーレベルが低い傾向が指摘されている。

 金融経済教育の推進を、小・中・高校生や大学生だけではなく、社会人、高齢者ら幅広い層に実施することが重要だろう。金融経済教育に力を入れている英国など海外の事例を参考に、学校教育の段階からこうした取り組みを充実させることが必要だと考えている。



群馬医療福祉大大学院社会福祉学研究科教授 白石憲一

 【略歴】2017年から現職。専門は計量経済学。県の地域大学連携モデル事業で桐生市などと共同研究を行う。川崎市出身。慶応大大学院商学研究科単位取得退学。

2021/10/29掲載