前回、前々回と英語を話せるようになるためのプロセスについて持論を述べてきた。「これでもう英語力の蓄えも、準備もできたから十分!」ではない。

 実は、次に挙げる要素が一番重要で、一番難しいのではないかと思う。それは「自分が発言しても良い、と自信を持つこと」だ。自己肯定感に近いと思う。

 自分の好みや考えを人に伝えて共感してもらったり、自分の意見を受け入れてもらったりする経験を積み重ねると、積極的に発言しようと思えるようになる。しかし、自分自身の育ってきた過去を振り返ってみると、残念ながら日本社会において、学校でも家庭でも大人が話の中心であり、決定権を持っていて、子どもだった私がそれを許された記憶がほとんどない。

 「私が発言しても良いのだ」と思えたきっかけになったのは、米国に留学して間もなく、ファストフード店でハンバーガーを注文した時だった。列に並び、注文をどう言うのか参考にしようと前の人のやりとりに耳を傾けていると「玉ねぎはグリルして。ケチャップは抜いて。マヨネーズを追加で」と、細かな指示が聞こえてきた。たかがハンバーガーの注文にたくさんアレンジがされていたのだ。「そんなことが許されるの?」と強烈な出来事だった。

 トマトが嫌いだった私は、渡されたハンバーガーから食べる前にそっと抜き取るしか方法はないものだと思っていたのに、目の前の人は自分の好みをしっかり伝えていてそれが受け入れられていた。

 この光景を目の当たりにしてから、「この国では私の思いを伝えても良いのだ。そしてそれを大事にしてもらえるのだ」と自分の発言の価値を見いだし、つたないながらも、とにかく伝えることを諦めないようになった。失敗しながらも繰り返したことで会話に自信を持つことができ、「英語で表現することが楽しい」「もっと話したい」という気持ちになれた。そして、最終的に英語を話せることは私のアイデンティティーを確立させるためになくてはならない鍵となった。

 「伝えよう」「伝えたい」と思い、外に出さなければ、どんなに素晴らしい語彙(ごい)力を持っていても、その力は発揮できない。前向きな気持ちを育てるには、小さい頃から自分の意見を安心して表現できる練習を積み重ねていくことが基礎となるだろう。

 恥ずかしいとか怖いとかいうネガティブな感情をあまり気にしない年齢から始めることを勧める。英語ネーティブでも、小さな子どもは完璧な英語を話さないが、間違っても戸惑ったり気にしたりしないし、日本の子どもも正しい日本語の習得のために間違いを繰り返す。言葉はかっこよくある必要はない。伝え合うから意味があるのだ。



子育てと学びのサポーター、臨床心理士 平林恵美(館林市栄町)

 【略歴】館林市子ども子育て会議委員。米国の大学を卒業後、東芝を経て大学院で臨床心理学を研究。茨城県出身。横浜国大修士課程修了、東京大博士課程満期退学。

2021/10/17掲載