10年以上前になりますが、日本放射線技術学会が長野県で市民公開シンポジウムを開きました。テーマは「乳がんの診断から治療の最前線~安心して乳がん検診を受けていただくために~乳がんを見つける」です。私はその企画と司会をさせていただきました。参加者に配ったレジュメで、乳がんのため40歳の若さで亡くなった東海ラジオのアナウンサー、谷川明美さんを紹介しました。

 ある新聞に谷川さんの追悼記事が載っていたのです。好きな仕事を途中で辞めなければならなかったこと。父母より早く逝かなければならない無念さ、つらさ。亡くなる半年前に、好きな詩を一つ選んで朗読する番組で谷川俊太郎さんの『生きる』を取り上げたこと。自分の死を恐れながらも「生きているということ いま生きているということ」と気丈に読み上げたこと。

 病院でマンモグラフィの撮影現場にいる私は、明らかに見ただけでも分かるような乳がんを目にすることがあります。なぜここまで放っておいたのか。乳がんと言われるのが怖くて受診しなかったのだろうか。私はそのレジュメに「検診では自覚症状のない時期に見つけることができるのです。命も、乳房の一部も残せるのです。自分のために、そして家族のためにマンモグラフィ検診を受けてください。あなたが、そしてあなたの大事な人が悲しい思いをしないために」と書きました。

 開催の準備をしている時、東海ラジオに「谷川さんが、死が迫りながらも気丈に番組内で読み上げ、告別式でも流されたという詩の朗読を、シンポジウムの参加者にも聞かせたい」とメールを送りました。すると、すぐにCDを送ってくれました。会場に流れた澄んだ明るい声に参加者は、乳がんで闘病し1年もたたずに亡くなってしまった女性の朗読とは思いもしなかったことでしょう。

 あれから10年以上がたちました。乳がんの罹患(りかん)は増え続けています。検診受診率はどうでしょう? 欧米諸国の検診受診率は70~80%というのに、なぜ日本では50%にも達しないのでしょうか? 今後も乳がん検診の重要性を訴え続け、受診率が高まるよう活動していきたいと考えます。

 本欄で1年間、がん検診の大切さや、どの施設でも精度の高い検診を受けられるように取り組んでいることなどを書いてきました。病気の診断において放射線技師の仕事は、人体や病気を画像として写し出すことです。いかに的確に、人体の組織を白から黒のさまざまなグレーの中に表すかに力を注ぎます。よく撮れた画像は美しく、その美しい画像は診断しやすい画像です。40年以上放射線技師を続け、良いことも嫌なこともありました。けれども、「これが好きだ」と思える仕事に巡り合うことができて、本当に良かったと思っています。



マンモグラフィトレーニングスクール代表、診療放射線技師 新井敏子(桐生市相生町)

 【略歴】定年まで病院勤務。乳がんに関する講習会の講師歴約20年。2020年7月、乳がんや検診の啓発、放射線技師の技能向上のため、桐生市内に同スクールを開校。

2021/10/9掲載