前橋ビジョン「めぶく。」はすてきな言葉だと思います。ドイツのコンサルティング会社に依頼し、世界的企業で実績のある専門家が手掛けました。外国人が日本の地方都市のビジョンを創ったことに違和感を持つ方もいるでしょう。確かに、日本や前橋に詳しい人に任せるのが一般的かもしれません。

 私は当時のプロセスに関わっていませんが、企業再生に長く関わってきた経験から、当時の前橋市の選択は納得できます。「ビジョン」を描くことから始まるのは企業再生も同じで、そこで重視されるのは俯瞰(ふかん)的であることです。対象事業や地域を知る当事者は先入観があり、内側からの目線になりがちです。重要なのは客観的であることと、本質を見極める技術です。

 外国人専門家が行ったのは、3千人の市民アンケートや繰り返しのヒアリング、まちなかを徹底的にフィールドワークすることでした。前橋を全く知らないからこそ、膨大なデータと見聞きした実感を冷静中立に分析することが可能になります。

 そして出された答えが「Where good things grow(良いものが育つまち)」であり、それを前橋出身のコピーライター糸井重里さんが「めぶく。」に仕上げました。この言葉に不思議な魅力を感じる方は多いと思いますが、それが前橋の持つ可能性と将来像を示す合理的な表現であることについては、まだ理解が進んでいないようです。

 昨年、宇都宮から単身赴任して前橋デザインコミッション(MDC)の仕事に就いたヨソモノの私も、「めぶく。」ビジョンの最初の印象は「守備範囲が広い抽象的な表現」でした。しかしたくさんの方とお会いし、歴史や資料、ビジョンなどの過程を学び直し、まちなかで暮らすうちに理解が深まっていきました。

 前橋には「出る杭」を打たない寛容さがあるように感じます。出る杭を支援するかというとそうでもなく、いい意味で「傍観している」寛容さです。

 明治期の「前橋二十五人衆」に代表される成功した起業家がまちづくりに貢献してきた歴史があります。100年超の老舗が多くあり、グローバル企業もあります。起業文化は連綿と受け継がれ、今も20代や30代で注目される若手経営者を輩出し続けています。人口30万人台の地方都市から切れ目なく全国区の起業家が生まれ続けるのは「めぶく。」土壌があるからでしょう。

 起業だけで「めぶく。」ことを説明することはできませんし、地域的持続性とアーバンデザインの推進力を生み出すことはできません。それでも、前橋のまちづくりに関わって1年半、「めぶく。」ことの意味が少し見え始めたヨソモノとして、役に立てるようになりたいと思っています。



前橋デザインコミッション(MDC)企画局長 日下田伸 宇都宮市

 【略歴】清水建設で環境ビジネス、東横インで経営戦略、星野リゾートで旅館再生の事業化に携わり、2020年5月から現職。前橋と宇都宮市の2拠点生活。東京都出身。

2021/09/29掲載