「県民と警察を結ぶ音のかけ橋」として活動する県警音楽隊を率いる橘さん(中央)

 装飾が付いた演奏服に身を包み、県警音楽隊の橘篤警部補(40)は背筋を伸ばしてトロンボーンを吹いた。今年2月、伊勢崎市文化会館。タクトが止まり、曲が終わると、静かなホールに余韻だけが残った。指揮者が振り向いて拍手に応えることはない。客席は無人だ。

 定期演奏会の曲目を決め、数カ月間練習してきたが、新型コロナウイルス感染症の第6波が直撃。開催1カ月前に中止が決まった。当日は無観客で演奏し、動画投稿サイト「ユーチューブ」で発信した。

 2020年春から、年間約60回あった発表の場は軒並み消えた。前身の桐生市警察音楽隊は終戦直後のすさんだ心を慰め、明るくしようと1950年に発足。世の中の危機にこそ、安らぎや勇気を生む存在になれるはずが、感染症は音楽活動から人々を遠ざけた。

 当時楽長だった西沢富一警部(55)を中心に、分散させた練習場所での演奏を重ねた動画や、屋外での演奏をドローンで撮影した動画を作った。手をこまねいていたわけではないが、「以前に比べれば隊員の張り合いはなかった」と橘さんは振り返る。

 今年3月、西沢警部が県警本部から桐生署へ異動し、橘さんが楽長に就いた。交代は14年ぶり。30人以上の隊員に「自分の指示は届くだろうか」。信頼が厚いコンダクターの後任は、荷が重かった。

 不安を吹き飛ばしたのが聴衆の拍手と笑顔だった。春の全国交通安全運動に合わせて4月13日、前橋市の商業施設でマーチ「ブルースカイ」など5曲を披露した。「間近で見られる反応がうれしかった」。隊員の表情も違って見えた。7月は7回の公演予定が入っている。

 音楽隊を引っ張る上で、もう一つ心配事がある。現在3人のカラーガード隊だ。フラッグを使った華々しい演技で10年間支えてきた茂原麻理恵さん(31)が年内に“卒業”予定で、いくら技術を高めても人数が少ないと見栄えに影響しかねない。

 常に募集しているカラーガード隊員は県警の会計年度任用職員となり、朝から夕方まで勤務時間を全て練習に費やせる。「体力は使うが初心者にもできる」と茂原さん。昨年11月に採用された岸本愛さん(27)は未経験ながら既に基本技を習得。指導者も兼ねる早川未来さん(31)から「体の使い方が上手」と期待される。

 橘さんは楽長になって初めて見えるものが多いという。「音楽はみんなでつくるもの。まずは隊員一人一人と信頼関係を築きたい」