東京五輪でメダルを連取した日本柔道の素晴らしさの源泉は、技の切れ味とともに、個の柔道家としての「品格」にあることを関係者は強調する。競技者である以前に、一人の人間として備えているべき精神性の尊重こそが、柔道を単なるスポーツ競技ではなく、それを「道」たらしめているという。

 ちょうど海外からの選手団の来日が本格化する直前の7月3日、静岡県熱海市で土石流災害が発生し、多くの方が犠牲になった。その発生源となった土砂の大半が外部から持ち込まれた土である、と後に報じられた。その土の中には不法に投棄された産業廃棄物の類いが混入している、との報道もある。

 災害発生の3日後、赤羽一嘉国土交通相が全国の盛土(もりど)を総点検する可能性を示唆したこともあり、盛土が災害原因を指す語句としてその後の新聞紙面を駆け巡った。しかし、この十把ひとからげの扱いは大半の盛土には、はた迷惑だろう。盛土にはそもそも具備しているべき「品格」があるからだ。

 土の塊をそこに置くだけでは、雨や地震で崩れてしまう。そこで、積み上げる土の傾斜を緩くしたり、高さを抑えたり、締め固めたり、雨水が土を崩さないように排水性を良くしたり、さまざまな工夫をして盛土が造られる。

 盛土を置く場所にも注意が払われる。景観や生態系への影響はどうか。災害の発生要因をつくらないか。特に、谷間などには水が集まってくるので、やむを得ず谷埋め盛土をする場合には、排水性の確保は最優先事項だ。

 普通はこうして品格のある盛土が造られる。思えば私たちの身の回りは既に盛土であふれている。道路、鉄道、堤防、ため池の堤。それらは使用目的に応じた法律の規制や設計指針などに基づいて建設されている。多くの盛土が雨や地震に比較的安全なのは、このおかげである。

 宅地盛土も例外ではない。最近、全国的に大規模盛土造成地マップが作成されたのを防災ハザードマップと混同する人がいるが、それは誤解だ。大地震の被害の教訓から、非常に古い造成盛土の中にまれに品格のない盛土が交じってしまっている可能性を意識した情報公開と捉えたい。転ばぬ先のつえのつもりで、住民自身の財産である宅地の耐震補強対策を国が支援しようというものであり、盛土自体が危険だと訴える意図は全くない。熱海の災害の本質を考えれば、それは持ち込まれた土、すなわち建設残土に対する規制の甘さにある。

 本県など、残土条例あるいは土砂条例を先行して運用する自治体も増えてきたが、国はようやく残土のトレーサビリティーと品質確保に向けた全国一律の法規制に向けて重い腰を上げるとも聞く。残土に対しても、盛土としての品格を求める今後の取り組みに期待したい。



群馬大教授 若井明彦 伊勢崎市上泉町

 【略歴】地盤災害のメカニズム解明と減災対策などを研究。2019年の台風災害では、富岡市の検証委員会委員長を務め、対応策を提案した。群馬大大学院修了。

2021/08/17掲載