生まれ育った街の「観光」が仕事になって3年がたとうとしている。安中市観光機構は地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに、地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりのかじ取り役である。多様な関係者と協力しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略をたて、着実に実行するための調整役も担う。

 本年度は、旅行需要が再び高まる時期を見据えて映像制作に取り組んでいる。単なる外向けのPR映像ではなく、その場所に関わる人にスポットを当て、メッセージ性のある映像を制作する。完成した映像を多角的に利用することが狙いだ。観光PR、郷土学習資料、介護・福祉の現場での活用という三つの目的があり、映像を通して地元の人は身近な場所の「良いところを再発見」できる。安中の観光スポットや、お祭りなど地域に根付いた文化、暮らしの中にある大切にしたい景色を「まだ知らない層」に映像で届ける。加えて意識したいのが、コロナ禍による自粛・中止で、行事やお祭りなどの文化とそれを継承するためのノウハウが途絶えてしまわないようにすることだ。

 物的欲求は観光や旅行で満たされる。行ったことのない場所に行ってみたい。その場所にしかない自分の好きなことを体験したい。まちの歴史と文化を知ってもらうことで、「また来たい」と思ってもらえるようにしたい。

 知ることから始まって、好きになる過程には旅先の人との出会いがある。ガイドとして碓氷峠の廃線跡を案内する際には、周辺のさまざまなことをレコメンド(推薦)している。よく行くラーメン店から、「星穴」と呼ばれる妙義山にぽっかり開いた穴のことまで。いろいろと話すうちに「なぜ、今の仕事をしているのか」と聞かれることがある。シンプルに答えると「好きだから、知ってもらいたい」に尽きる。

 バイクに乗って一人、景色のいい道を走っていると「やっぱり良いところだな」と思うことがある。でも、一人で思うより誰かと話して感じることの方が、何倍も強く「この場所で過ごす価値」を実感する。「この人たちと一緒に成し遂げたい」と挑戦する気持ちも抱いた。

 携わっている「安中ヘルメットプロジェクト」は、年内に市内の全児童に防災用ヘルメットを届ける。Tシャツの販売に加えて家庭用防災ヘルメットの販売も始めた。練習を手伝っている松井田高野球部は夏の大会で3年生が頼もしい活躍をした。部員も1人増えた。廃線ウォークはナイトツアーを開始する。

 「今できることを形に」することからステップアップして「数十年後のために今できること」を考えたい。そのために「知らない」を「知っている」に変えていきたい。



安中市観光機構職員 上原将太(安中市松井田町横川)

 【略歴】(うえはら・しょうた) 2018年から現職。「廃線ウオーク」ガイドなどを務め、地域の魅力を発信。都内の印刷会社を経て帰郷。安中市出身。東京農業大北海道オホーツク卒。

 2021/8/7掲載