わが国の公営企業会計に基づく水道事業の2019年度総収益は約3兆2千億円、黒字事業体は1685事業体(90.9%)と良好な業況となっています。また、国内の給水人口は約1億2千万人で、水道普及率は98.1%と、ほぼどこに暮らしても水道にアクセスすることができる状況です。一方で、この概況通りにほくほく顔の水道行政担当者や民間事業者、学者たちにお会いすることは非常にまれです。

 近年、国内で水道行政というと民営化や広域化がテーマになることがほとんどです。しかし、より根源的な持続可能性(健全性・安定性など)の確保について、最新の調査なども踏まえ、2回にわたって議論したいと思います。

 水道行政の課題として「施設老朽化による更新需要の増大」「職員数の減少による技術継承の問題」「人口減少に伴う料金収入の減少」の3点が挙げられますが、これらは厚生労働省が04年に示した「水道ビジョン」などで既に指摘されていました。また、伝統的な優良民間企業などの業績悪化や廃業、談合などによる課徴金命令などが継続的に報じられています。該当の指標は一貫して悪化しており、特に資本的支出については明確に将来需要者の水道料金などに先送りされている構造です。また人口減少が深刻な市町村ほど、実態を正確に把握できていない状況がうかがえます。

 わが国の水道行政は歴史上、制度上、そして実態としても中央官庁による積極的な分配機能・監督機能が相対的で、地方自治体が経営主体として強い責任と裁量を持つ仕組みになっています。

 1887年に、伝染病の予防・まん延防止を目的とする神奈川県知事の命令で、英国人技師を顧問に迎えて横浜市で整備されたのが、わが国の水道行政の始まりです。群馬県では1910年に高崎市、25年に沼田市、29年に前橋市、32年に桐生市、と自治体ごとに徐々に給水網の整備と運営が広がり、高度経済成長期に急伸しました。

 国内最初の政府水道条例や現在の水道法などにおいても、経営主体としての市町村の責務や具体的な負担などが明示されています。その結果、現在、業界全体での地方公営企業のシェアは99.6%(工業用水道事業は99.9%)であり、下水道事業(90.4%)を除いては自治体が行う他の民間サービス(バス・鉄軌道交通事業、病院事業、電気・ガス事業など)と比べて、非常に高い割合となっています。

 自治体によっては、高齢者らに対して料金を減額したり免除したりしています。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、支払い猶予措置などに加えて独自で基本料金の減免措置などを取る自治体もありました。



投資・投資助言業役員 永井宏典 東京都港区

 【略歴】政府系金融機関、野村総合研究所を経て、2021年4月から現職。米国証券アナリスト、米国公認会計士。高崎市出身。高崎高―慶応大卒。

2021/08/02掲載