OLN(オルン)の活動を始めた頃、「帯の経験をオルンに。オルンの経験を帯に」という合言葉をよく使っていました。帯作りで培った技術を、呉服に関心のない人たちにも届く商品に生かす。そこで鍛えた感覚を本業である帯作りに還元する。そんな相乗効果をイメージしていました。
結果的にオルンの活動は私たちを取り巻く環境を少しずつ好転させてくれました。織物に集中するため友人たちとは疎遠になっていましたが、その彼らがオルンの商品を購入し応援してくれたのです。親戚や両親の知人も同様に応援してくれました。
そんな中「オルン展をやってみない?」と声を掛けてくれた先輩がいました。同じ町内でジェラート店「わびさびや」を営む高野夫妻です。わびさびやの企画展といえば目利きの確かさで知られ、私たちでは力不足だと自覚していました。しかし奥さまの道子さんが着物好きということもあり、麻ふきん、ストール、井清の帯の3本立てで開催されました。慣れないことばかりでしたが、常連客の皆さんに喜んでもらえ、私たちとしては予想を上回る結果となりました。最終日の夜、打ち上げの席で店主の欽市さんが掛けてくれたひと言を今でも覚えています。「オルンの織物を欲しいって思う人、全国にもっといるはずだよ」
その後、地元桐生市のさまざまな作家さんや他の産地、他ジャンルの方々とも交流させていただきました。時には世界を相手に活動してきた経営者やデザイナーと一緒に仕事をする機会にも恵まれました。そうした経験が積み重なるうちに、自分たちの志向、強みと弱み、織物の特徴などを少しずつ客観的に理解できるようになっていきました。
意外な発見もありました。オルンの活動の一つに「産地から消費者まで誰かに(主に経済的な)シワ寄せがいかない環境をつくる」という目標があります。これに共感してくれる取引先がとても多かったのです。慣習にとらわれず、対等でオープンな関係でも織物業が成立すると証明したいのですが、同じように考えている人たちが多く、既に行動を起こしている人もいることに驚きました。
そんな中、以前から妻の配色表現を高く評価してくれていた高島屋の担当者から、オルンとのコラボ商品として帯とバッグを制作したいという依頼がきました。呉服業界の王道を歩む高島屋からの思いがけない提案でしたが、これが契機となり、数年後には帯もストールも生活雑貨も全てオルンという共通の世界観の商品へと成長しました。
振り返れば、私たちはいつも誰かに背中を押してもらい、その都度その気になり、新たな挑戦をして経験を重ねてきました。起点となるのはいつも人との出会いだったことに気付かされます。
OLN代表、井清織物代表 井上義浩(桐生市境野町)
【略歴】(いのうえ・よしひろ) 井清織物4代目。大学進学で上京後、テレビ番組制作などを経て30歳で帰郷し、同社入社。2014年、妻と織物の生活雑貨ブランド「OLN」を立ち上げ。
2021/7/28掲載