「いっしょうけんめいそだてました。みなさん食べてください」

 そう書かれた手作りのポップとともに、きれいに袋詰めされたタマネギとジャガイモが店を彩ってくれました。「おひな野菜」と名付けられたそれらは、地元の農家・上州下仁田屋さんの小学3年生の娘さんが育てたものです。

 彼女は昨年、新型コロナで休校になったことをきっかけに、家にいる時間を利用して自分で農園を作り野菜の栽培を始めました。1年目はラディッシュとわさび菜、小松菜。そして今年はタマネギとジャガイモ。ジャガイモは、はるか、シャドークイーン、インカのめざめなど数種類を育ててくれました。

 自分が作った野菜がどうやって消費者の元に届くのか。「作って終わりではなく、出口まで教えられたら」というご両親の考えもあり、昨年から私の店に置き、お客さまに自由に持ち帰ってもらうようにしたのです。

 経験したことがある方なら分かると思いますが、農作業は本当に大変な仕事です。私も少しばかり手伝ったことがありますが、1日で音を上げてしまいました。大人の私がそうだったのですから、いくら両親のサポートがあるとはいえ、小学生にとっては大変な作業だったでしょう。

 地方に暮らしていると当たり前のように新鮮な野菜を買えたり、もらえたりします。幸せな環境がいつしか日常になり、食べるときに作り手のことを考える機会が少なくなってはいないでしょうか? おひな野菜を手に取ると小さな生産者が一生懸命育ててくれた様子が目に浮かび、より一層大切に食べようと思わせてくれます。そして生産者さんへの感謝の気持ちを思い起こさせてくれるのです。

 だからこそ、実際に食べてみてその感想を本人に伝えたい!とメッセージをいただいたり、調理した写真を送っていただいたりと、大きな反響がありました。

 私もおひな野菜を通してたくさんの学びがありました。手に取っていただいたお客さまと交流を持てたことや、地元のお子さんのすてきな取り組みを応援する場を提供できたことなどです。

 私はチャレンジショップという下仁田町の起業支援施設を借りて営業しています。そのため日ごろから、店舗として利用しながらも町の公共施設としての役割も担っているという意識を持ってきました。今回、おひな野菜の生産者本人にもお客さまにも喜んでいただけたことは、とてもうれしいことでした。店の在り方として、これからも下仁田の頑張りを応援し、紹介できる場でありたいという思いを改めて強くしました。

 おひな野菜もまた来年、多くの方に手に取っていただけるように願っています。



カレーと珈琲シモンフッド代表 阿久沢慎吾 下仁田町馬山

 【略歴】デザイン会社を経て勤めた出版社でオートバイ、エンタメなどの雑誌編集に携わり、2019年、古里の下仁田町にUターンして起業。富岡高―青山学院大卒。

2021/07/25掲載