「第5レーン、群馬前橋陸協、中嶋君、小見君、青木君、伊藤君」。西日がまぶしい真夏の東京・国立競技場にアナウンスが響き渡る。1997年8月、全国小学生陸上競技交流大会男子400メートルリレー決勝。全国2位という宝物の記憶。夏になるとよみがえる、そんな思い出が私にはある。

 陸上競技経験ゼロの小学6年の私が前橋市の強化選手に選ばれ、約3カ月で全国大会の決勝の舞台に立たせてもらえたのは、今思えばシンデレラストーリーのようだ。当時は必死すぎて楽しむ余裕すらなかったように思う。

 運動会の徒競走では誰にも負けたことはなかったが、陸上競技とは無縁だった。6年生の春に初めて学校代表として市の陸上記録会に出場することになった。母に「前橋には小学校が約40校あって、速い人がたくさん集まるんだから秀人がビリでも気にすることはないよ」と送り出され、前日に買ってもらった新しい靴とともに記録会に臨んだ。遠足ですら履き慣れた靴で来てくださいと言われるのに、前日に新しい靴を買うなんて…。しかも、運動靴というよりカジュアルなマジックテープの子ども靴。振り返ると笑える話だ。

 結果は100メートルで3位。後日、自宅に前橋陸協から連絡があり、市の代表選手として県大会、全国大会を目指すための練習が始まった。初めて練習に参加した日、陸上競技初心者がいて良い場所なのかと、子どもながらに場違いな感じがした。周りはやはり、元々陸上競技に力を入れている優秀な選手ばかり。皆の速さに驚きを隠せなかった。悔しいというより、「みんなすごい!」という気持ちが勝った。

 100メートルの上位4人でリレーチームを組み、県大会、全国大会を目指す。メンバー候補は5人で、そのうち1人は補欠だ。一瞬たりとも気が抜けないサバイバルだった。私はどうにか4人の中に入ることができた。チームは県大会で優勝し、全国大会への切符を手にした。自分以外のメンバーは県でもトップクラスの選手。しかし、初心者を見下すこともなく本当に優しくて心強い存在だった。

 監督やメンバーと全国大会に向かう電車の車窓。前橋駅から高崎駅へ向かう途中に一瞬自宅が見える。ふと自宅に目をやると、弟たちが窓から電車に向かって一生懸命手を振っている姿が見えた。戦争に行くわけではないが、見送ってくれているのがうれしくもあり、涙があふれそうになったのを覚えている。

 信頼できる仲間、監督、家族に支えられ、全国大会で準優勝に輝いた。素晴らしい経験をさせてもらったことに心から感謝している。あの夏の景色は今でも忘れられない。そして、これからも忘れることはないだろう。



俳優、金魚愛好家 中嶋秀人 東京都

 【略歴】ドラマ「ドクターX」やCM「エバラ黄金の味」に出演。手話を通じた俳優業にも取り組む。社会福祉士や保育士などの資格を持つ。前橋市出身。

2021/07/11掲載