高校生の進学先として大学の医学部が人気だ。進学校のホームページには難関大学に加え、医学部の合格実績が強調されている。そこで、人気の理由を考えてみた。

 医師という職業は人の命に関わる崇高なものだ。加えて、このコロナ下での医師の奮闘ぶりを見れば、高校生が憧れや尊敬の念を抱くのは自然なことだと思う。しかし、大企業に就職しても先を見通せない、研究者になろうとしても無期雇用のポストは限られているなどの今の不確かな社会で、経済的安定や社会的地位を求めて医師を目指しているのであれば、高校教師としては少し寂しい気がする。

 ならば、「人の命を救いたい」という動機はどうだろう。これについても思うところがある。こんな話を聞いたことがある。ある医学部の入試の面接で「政治家と医師の違いを答えよ」という問いが出た。医師は人の命を救うという答えはあまり評価されないそうだ。理由は明確で、政治家も人の命を救うからである。このことは、このコロナ禍で強く教えられた。医療と経済の両方を守れるようさまざまな政策を生み出してきたリーダーや、それらを支えてきた役人たちは、今まで数え切れない人たちの命を救ってきただろう。

 いや、政治家だけではない。現在、頼みの綱とされるワクチンも、昼夜問わず実験を繰り返してきた基礎研究者の努力のたまものだ。さらに身近なところに目を向けると、エッセンシャルワーカーをはじめとするさまざまな方々に、今までどれだけ生活を助けられてきたことか。そんなことを考えていると、ふと、こう思う。そもそも働くとはどういうことかと。

 働くとは誰かの力になることだ。そして、どのような仕事も私たちの命を支えている。至極当然のことかもしれないが、僕はそんなふうに思う。大切なのは、自分がどう働きたいかを見いだすことではないだろうか。そのためには、まず自分自身を知ることだ。自分がどんなことに価値を見いだし、何を正しいと思い、何を間違っていると思うかなど、時には俯瞰(ふかん)しながら自身の性質や信念について悩み知ることである。特に、大人と子どものはざまにある高校生にはぜひそうしてほしいと思うし、そこに学力の高低や障害の有無は関係ない。そして僕は、そんなふうに自身のことを悩み考え抜いてきた若者に、立派な医師を目指してほしいと願う。

 「少年よ、大志を抱け」で有名なクラーク博士の言葉には続きがあり、次のように訳されている。〈金銭や我欲、名声のためであってはならない。人間としてどうあるべきか、そのために大志を抱け〉

 さあ、Mr.&Ms.高校生、あなたにとってあるべき姿とは? そして、誰かのために何がしたい?



高崎高教諭(通級指導担当) 佐藤利正 高崎市柴崎町

 【略歴】特別支援学校や普通高校に勤務し、2019年から現職。生徒支援の経験を基にした小説で上毛文学賞、県文学賞受賞。群馬大大学院博士課程修了。博士(医学)。

2021/07/05掲載